「夏休み、9連休だった」
友人からそう聞けば、最初は何とも思わない。
こちらも9連休だったからだ。
ところが話を聞いていると、どうも様子が違う。
友人の会社には夏季休暇が5日ある。
だから、有休は1日も使っていない。
私は夏季休暇がない。
同じ9連休を作るために、有休を5日使った。
休んだ日数は同じ。
なのに休み明け、友人の有休はそのままで、私の有休だけ5日減っている。
……あれ?
同じ9連休だったはずなのに、こちらだけ財布ならぬ「休みの残高」が減っている。
こうなると、急に夏休みの後味が変わってくる。
月給30万円として単純計算すれば、5日分は7万5000円。
「じゃあ私は7万5000円損したのか?」
そう考えたくなる。
ただ、ここは少し注意が必要だ。
実際に7万5000円を失ったわけではない。有休は原則として自由に現金化できる権利でもないため、「7万5000円の損」とそのまま断定するのも正確ではない。
本当に減ったのは、お金ではなく「別の日に休める5日間」だ。
そして、たぶんモヤモヤの正体もそこにある。

夏季休暇5日と有休5日は同じ「休み」ではない
カレンダーだけ見れば同じだ。
月曜日から金曜日まで休んで、土日とつなげれば9連休。
会社から離れている日数に差はない。
しかし、その5日をどこから持ってきたのかが違う。
年次有給休暇は労働基準法で定められた休暇だが、夏季休暇そのものを会社に義務づける法律はない。
つまり夏季休暇は、会社が独自に設ける特別休暇の一つ。
厚生労働省の令和7年就労条件総合調査では、夏季休暇などを含む特別休暇制度がある企業は60.3%。そのうち夏季休暇制度がある企業は41.5%となっている。
裏返せば、夏季休暇がない会社も珍しくない。
法律だけを見れば、
「うちには夏季休暇ありません」
で終わる話ではある。
法律はそう言っている。
しかし人間は法律だけを読んで生きていない。
隣で同じように9連休を取った友人が、有休を1日も減らしていないと知れば話は別だ。
「同じ9日休んだのに?」
という小さな引っかかりが残る。
休暇制度というものは、比較対象を見つけた瞬間に急に存在感を増す。
給与明細と同じである。
知らなければ平和だった数字が、他人の数字を見た瞬間にしゃべり始める。
有休5日を7万5000円と考えると何が見えてくるのか
では、有休5日をあえて金額に置き換えてみる。
月給30万円、年間の所定労働日数240日という仮定なら、
30万円×12ヶ月÷240日=1万5000円
単純計算では1日あたり1万5000円。
5日なら、
1万5000円×5日=7万5000円
となる。
数字にすると、急に重い。
「有休5日」なら何となく流せても、「7万5000円相当」と書かれると、ちょっと待てと言いたくなる。
人間、日数には寛容でも円マークには敏感である。
ただし、この7万5000円をそのまま「損失額」と考えるのは違う。
有休を取っても通常はその日の賃金が支払われる。今回も7万5000円が給与から引かれたわけではない。
そもそも、この計算は有休1日の経済的な大きさをイメージするための単純化した試算にすぎない。
失ったのは現金ではなく、有休の残り5日。
つまり、
「7万5000円を失った」
というより、
「別の日に給与を受け取りながら休める5日間を、夏休みで使った」
と考えた方が近い。
この違いは大きい。
本当に痛いのは夏休みのあとに使える有休が5日少ないこと
有休が減った影響は、お盆には見えにくい。
問題になるのは、そのあとだ。
急に体調を崩した。
平日に外せない用事ができた。
どうしても休みたい日ができた。
そんなとき、夏季休暇がある会社の人には残っている5日が、自分にはない。
有休のありがたさは、使う予定がないときには驚くほど地味だ。
ところが必要になった瞬間、急に主役になる。
毎年、夏休みのために有休を5日使うと仮定すると、単純な累計では差はこうなる。
・1年:5日分=7万5000円相当
・5年:25日分=37万5000円相当
・10年:50日分=75万円相当
もちろん、50日の有休がそのまま金庫に積み上がっていくわけではない。
年次有給休暇の請求権には時効があり、通常は付与から2年で消滅する。
だから「10年間で50日貯まる」という意味ではない。
むしろ、
毎年、自由に使えるカードを5枚ずつ夏に切っている。
そんなイメージの方が近い。
カードを使った夏は楽しい。
問題は、秋になってから「あのカード、もうないんだった」と気づくことである。
「夏季休暇の代わりに有休を使って」は会社が自由に決められるのか
ここは、「自分で有休を申請した」のか、「会社が有休の日を決めた」のかで話が変わる。
自分でお盆に有休を申請して休むなら、それ自体は普通の有休取得だ。
一方、会社側が特定の日を有休として割り振る仕組みには、「年次有給休暇の計画的付与」がある。
計画年休では、労使協定など必要な手続きを行えば、年次有給休暇のうち一定の日数について取得日をあらかじめ決められる。
ただし、会社が全部好き勝手に決められるわけではない。
少なくとも5日は、労働者自身が自由に取得できる日数として残す必要がある。
つまり、
「今年の夏休み、この5日ね。有休から引いておくから」
と会社が何の仕組みもなく計画年休として処理できる、という話ではない。
ただし、もう一つ例外がある。
年10日以上の有休が付与される労働者については、会社には年5日の有休を確実に取得させる義務があり、必要な場合には労働者の意見を聴いたうえで会社が取得時季を指定する制度もある。
そのため、
「労使協定がなければ、会社は絶対に有休の日を指定できない」
とまで言い切るのも正確ではない。
有休制度、思ったより登場人物が多い。
こちらは夏に休みたいだけなのに、計画年休と時季指定が別々のドアから入ってくる。
夏休みに使った有休は「年5日の取得義務」に数えられる
2019年4月から、年10日以上の有休が付与される労働者について、会社には年5日の年次有給休暇を確実に取得させる義務がある。
この5日には、
・本人が自分で取得した有休
・計画的付与によって取得した有休
・会社が時季指定して取得させた有休
が含まれる。
だから、計画年休として夏に有休5日を取得したなら、その5日は原則として「年5日の確実な取得」にカウントされる。
一方、会社独自の夏季休暇は年次有給休暇ではない。
夏季休暇を5日取ったからといって、それだけで年休5日の取得義務を満たしたことにはならない。
ここでも友人との差が出る。
友人は夏季休暇で5日休み、さらに有休を別の日に使える。
こちらは有休そのものを夏に5日使う。
同じ「9連休」という完成品でも、材料がまるで違う。
スーパーで同じ弁当を買ったと思ったら、片方だけ自宅から米を5合持参していたような話である。
そりゃ、ちょっと気になる。
モヤモヤの正体は「7万5000円」より自由に使える休みの差
最初は「7万5000円損した」と考えた。
でも、そこだけを見ると少しズレる。
給与から7万5000円を取られたわけではない。
本当に差がついているのは、
「夏休み以外に、自分の都合で休める日が何日残っているか」
だ。
夏季休暇が5日ある会社なら、夏に5日休んでも年休は減らない。
夏季休暇がなく、有休を5日使う会社なら、その5日は当然残らない。
この差は給与明細には出てこない。
だから見落としやすい。
年収が同じ会社を比べるときも、給与だけ見ていると分からない。
休日数、特別休暇、有休の使われ方。
こういう「お金ではない条件」は、働き始めてからじわじわ効いてくる。
派手ではない。
でも毎年5日なら、かなり大きい。
まず就業規則の「夏季休暇」と「年次有給休暇」を1回だけ確認する
今日やるなら、一つでいい。
会社の就業規則や休暇規程を開いて、
「夏季休暇」
「年次有給休暇」
「計画的付与」
の記載を確認する。
自分でお盆に有休を申請しているのか。
会社独自の夏季休暇なのか。
計画年休として決められているのか。
ここが分かるだけで、モヤモヤのかなりの部分は正体を現す。
「夏休み5日」という名前だけでは分からない。
休みも、中身を見る時代らしい。
同じ9連休でも「何を使って休んだか」で意味は変わる
友人も9連休。
自分も9連休。
カレンダーだけなら引き分けだ。
でも、休み明けの有休残高を見ると5日差がある。
有休5日を7万5000円相当と考えることはできても、それをそのまま現金7万5000円の損と呼ぶのは正確ではない。
本当に見ておきたいのは、もっと地味なところだ。
夏が終わったあと、自分のために使える休みが何日残っているのか。
休みの日数だけではなく、「誰が、いつ使うと決められる休みなのか」。
そこまで見て初めて、会社の休暇制度の本当の差が見えてくる。



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