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ボーナスの説明がない会社を辞めた後輩|不信感の正体

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後輩が6月末付で退職した。

ボーナスが振り込まれた数日後だった。

「ボーナス入ったんで、今月で辞めます」

冗談を言うような口調だったので、最初は意味が分からなかった。

私はパソコンから顔を上げて聞いた。

「え、なんで?」

後輩は少し黙った。

それから、声を落として言った。

「実は、ずっとモヤモヤしてたことがあって……」

その話を最後まで聞いた瞬間、正直に思った。

それは辞めるわ。

もちろん、退職は簡単な話ではない。

仕事内容。

人間関係。

給料。

将来性。

家庭の事情。

いくつもの理由が重なって、人は会社を離れる。

だが今回、後輩の気持ちを決定的に冷やしたものは、かなり分かりやすかった。

ボーナスの金額が合わない。

そして、理由を聞いても誰も説明してくれない。

問題は、約28万円の差額だけではなかった。

自分の働きが、どんな基準で評価されたのか分からない。

説明を求めても、まともに向き合ってもらえない。

その小さな違和感が、会社全体への不信感に変わっていた。

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その違和感の始まり

うちの営業課は歩合制だった。

基本給に加えて、営業で生み出した粗利の2%がボーナスへ反映される。

少なくとも、後輩はそう説明を受けていた。

頑張った分が数字に表れる。

営業職としては分かりやすい。

売上をつくる。

粗利を残す。

その成果の一部が自分へ戻る。

明快なルールに見えた。

後輩が担当した案件の粗利は、合計で約3,000万円。

その2%なら60万円だ。

さらに、本人が認識していた基本給相当額を加えると、ボーナスは約90万円になる計算だった。

少なく見積もっても、その付近には届くと思っていたらしい。

ところが、実際に支給された金額は62万円だった。

通帳を見た後輩は、最初に会社を疑わなかった。

自分の計算が間違っていると思った。

売上表を開く。

粗利を確認する。

電卓を叩く。

もう一度、最初から計算する。

それでも合わない。

何度やっても、90万円前後になる。

税金や社会保険料などの控除だけでは説明できないと思い、後輩は上司へ相談した。

「計算式を教えてほしいです」

「どこが違うのか知りたいです」

ただ、それだけだった。

今すぐ不足分を払えと怒鳴ったわけではない。

会社が不正をしていると決めつけたわけでもない。

自分の認識が間違っているなら、正しい仕組みを知りたい。

ごく普通の確認だった。

ところが上司から返ってきたのは、

「まあ、そういうもんだから」

という言葉だった。

便利な日本語である。

内容は何も説明していないのに、話だけは終わったような雰囲気を出せる。

「昔からそうだから」

「会社ってそんなもんだから」

「大人なんだから分かるよね」

理屈の代わりに空気を置き、相手が飲み込むのを待つ。

会社員社会に生息する、説明不要の万能呪文だ。

だが、後輩は飲み込めなかった。

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違和感の正体

この違和感の正体は、

「評価されなかったこと」ではない。

「評価の根拠を知らされなかったこと」だ。

ボーナスは、必ずしも本人の予想どおりに支払われるとは限らない。

会社の業績。

部署の達成率。

個人査定。

返品や値引き。

入金状況。

対象期間。

支給日在籍要件。

各種控除。

計算に影響する条件はいくつも考えられる。

だから、支給額が62万円だったことだけで、会社が不正をしたとは断定できない。

会社側に合理的な計算根拠があった可能性もある。

だが、それなら説明すればいい。

「この案件は対象期間外です」

「粗利ではなく入金済みの利益を基準にしています」

「部署全体の達成率による調整があります」

「60万円は額面で、ここから控除されています」

根拠を示せば、本人が納得するかどうかは別として、少なくとも話し合いはできる。

ところが会社は、その入口にすら立たなかった。

計算式を尋ねても答えない。

社長へ確認してほしいと頼んでも、上司は掛け合わない。

ただ、

「そういうもんだから」

で終わらせる。

これは金額の問題ではない。

あなたの評価について、あなたに説明する必要はない。

会社から、そう扱われた感覚が残る。

人は低い評価だけで傷つくのではない。

自分がどう評価されたかさえ知る権利がないように扱われたとき、深く傷つく。

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違和感になぜ気づけないのか

会社側は、後輩がそこまで不信感を抱いているとは思っていなかったのかもしれない。

ボーナスは支払った。

基本給も毎月出している。

大きなクレームもない。

本人も普通に出勤している。

だから問題は終わった。

そう見えていた可能性がある。

だが、職場における沈黙は、納得とは限らない。

後輩はその後も、何度か説明を求めていた。

「計算式を教えてほしい」

「どこが違うのか知りたい」

言っていることは変わらない。

それでも回答は曖昧なままだった。

すると人は、少しずつ質問をしなくなる。

納得したからではない。

聞いても無駄だと学習したからだ。

ここで会社は勘違いする。

「最近、何も言ってこなくなった」

「落ち着いたみたいだ」

違う。

心の中では、すでに退職の準備が始まっている。

転職サイトを見る。

求人票を保存する。

有給休暇の日数を数える。

次のボーナス支給日を確認する。

そして何食わぬ顔で働く。

会社から見れば突然の退職でも、本人の中では何カ月も前から始まっていた。

退職届は、決断の始まりではない。

会社に知らされる最後の一枚だ。

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金額よりも説明のなさが不信感を育てる

後輩は言った。

「金額の問題じゃないんです」

もちろん、28万円は小さな金額ではない。

家賃。

生活費。

子どもの教育費。

車の支払い。

使い道はいくらでもある。

「金額の問題ではない」と言いながら、本当に28万円がどうでもよかったわけではないだろう。

それでも、最終的に退職を決めた理由は別にあった。

「説明してもらえない会社で、この先も働くのが不安でした」

この言葉がすべてだと思う。

今回説明されなかったのなら、次も説明されないかもしれない。

昇給。

昇進。

異動。

降格。

歩合率の変更。

担当顧客の配分。

残業代。

退職金。

自分の生活を左右する判断が、すべて「そういうもんだから」で処理されるかもしれない。

現在の62万円だけではない。

この先も会社の都合で基準を変えられ、理由すら知らされない可能性がある。

その不安が、後輩の中で大きくなった。

信頼とは、相手が必ず自分の望みをかなえてくれることではない。

望まない結果になったときでも、理由を説明してくれると思えることだ。

会社が高いボーナスを出せないことはある。

厳しい評価をすることもある。

だが、説明を拒めば、その評価は会社の都合で決めた数字にしか見えなくなる。

透明性のない評価制度は、従業員の努力と報酬を切り離す。

頑張っても基準が分からない。

成果を出しても金額が合わない。

質問しても答えが返らない。

そんな環境で、

「次も頑張ろう」

と思える人は少ない。

営業成績を上げる前に、読心術を習得しなければならない会社になってしまう。

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違和感は少しずつズレていく

後輩は、最初から退職するつもりではなかった。

自分の計算ミスだと思っていた。

説明を受ければ、それで終わる話だったかもしれない。

だが、会社が説明を避けるたび、違和感の対象が変わっていった。

最初は、

「ボーナスの計算が合わない」

だった。

次に、

「上司が確認してくれない」

へ変わった。

そして最後には、

「この会社は、自分に説明する必要がないと思っている」

になった。

小さな数字のズレが、人間関係のズレへ変わる。

人間関係のズレが、会社全体への不信感へ広がる。

信頼が崩れると、それまで気にならなかったものまで疑わしく見えてくる。

あの査定も本当だったのか。

担当変更の理由も別にあったのではないか。

上司の言葉は信用できるのか。

今後、約束された歩合は支払われるのか。

一つの説明不足が、過去と未来の両方を濁らせる。

ここまで来ると、会社が後から28万円を支払っても、元には戻らない場合がある。

失われたのは差額ではない。

「この会社で努力すれば、正当に扱われる」という感覚だからだ。

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ボーナスをもらって辞めるのは不義理なのか

後輩は、ボーナスが入ったあとに退職を申し出た。

この行動に対して、

「ボーナスだけもらって辞めるなんて不義理だ」

という人もいるかもしれない。

だが、その見方には少し違和感がある。

賞与は、会社から従業員への餞別ではない。

基本的には、それまでの勤務や成果などを踏まえて支給される報酬だ。

もちろん、賞与の法的な扱いや支給条件は、就業規則・雇用契約・会社の制度によって異なる。

将来への期待を含めた支給という考え方もあり得る。

ただ、少なくとも、

「辞める予定の人が受け取るのは道徳的に悪い」

と一律に決めるのは乱暴だ。

後輩は、賞与の対象となる期間に働いていた。

粗利も生み出していた。

会社が定めた支給日に在籍し、会社の判断で賞与を受け取った。

それから退職を決めた。

これを不義理と呼ぶなら、説明を求めた社員へ何も答えなかった会社の対応は何と呼ぶのだろう。

忠義は一方通行では成立しない。

従業員に誠実さを求めるなら、会社も評価や報酬について誠実である必要がある。

会社は家族ではない。

たまに社長が家族のような会社を目指すと言うが、本当の家族でもお金の説明を拒まれれば普通に揉める。

むしろ家族だからこそ、かなり揉める。

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違和感とどう向き合うか

自分の給料やボーナスに違和感がある場合、最初から会社を疑う必要はない。

まず、事実を整理する。

・雇用契約書
・就業規則
・賃金規程
・賞与規程
・歩合給の計算ルール
・給与明細
・営業成績や粗利の記録
・上司から受けた説明
・支給対象となる期間

このあたりを確認する。

口頭で聞いた「粗利の2%」と、正式な規程が違っている場合もある。

対象外となる売上や控除条件が定められている可能性もある。

だから、感情だけでなく資料を見る。

そのうえで、会社へ書面やメールで質問する。

「私の計算ではこの金額になります」

「実際の支給額との差について、計算根拠をご教示ください」

責める言葉ではなく、確認したい項目を具体的に伝える。

口頭だけでは、

「言った」

「聞いていない」

になりやすい。

記録を残すことが大切だ。

それでも説明されず、賃金や賞与の支払いに法的な疑問がある場合は、労働基準監督署、労働局の総合労働相談コーナー、労働組合、弁護士などへ相談する選択肢もある。

ただし、賞与は毎月の賃金と異なり、制度の定め方によって扱いが変わる。

「予想より少ない=直ちに違法」とは限らない。

だからこそ、契約や規程を確認する必要がある。

今日からできる小さな一歩は一つ。

自分の給与や評価について疑問があるなら、

「何となくおかしい」

で止めず、計算根拠を一枚の紙に書き出す。

会社の説明。

自分の認識。

実際の支給額。

三つを並べる。

違和感は、数字にすると見えやすくなる。

そして数字を尋ねたのに、会社が答えようとしないなら、その沈黙自体も判断材料になる。

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ボーナスの説明がない会社を辞めた後輩|不信感の正体|まとめ

後輩が会社を辞めた理由は、ボーナスが62万円だったからだけではない。

粗利3,000万円に対する歩合を何度計算しても、本人の想定と合わなかった。

計算式を尋ねた。

違いを説明してほしいと頼んだ。

それでも上司は社長へ確認せず、

「まあ、そういうもんだから」

で終わらせた。

その結果、金額への疑問より、会社への不信感が大きくなった。

人はお金だけで会社を辞めない。

自分の評価基準が見えない。

説明を求めても答えてもらえない。

今後も同じように扱われるかもしれない。

その不安で辞める。

ボーナスを受け取ってから辞めることを、不義理だと見る人もいるだろう。

だが、先に考えたい。

何の説明もしてくれない会社を、これからも信じて働けるだろうか。

人を引き止めるのは、曖昧な精神論ではない。

評価の高さだけでもない。

たとえ望まない金額でも、理由をきちんと説明してもらえるという安心だ。

「そういうもんだから」で社員を黙らせた会社は、最後に退職届という、最も分かりやすい答えを受け取る。

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