
読み始めてすぐに「面白くないわけではないけれど、思ったより進まないかもしれない」と感じました。会話が多く、方言もふんだんで、読書会の輪に自分が入り込むまで少し時間がかかったからです。 でも中盤を越えたあたりから、いつのまにかこちらの呼吸が合ってきて、登場人物たちの言葉がいちいち愛おしくなっていきました。 歳を重ねても、定期的に集まり、遠慮なくおしゃべりできる場所がある。その「当たり前ではない幸せ」が、読後にじわじわ胸へ残る作品でした。
【書誌情報】
| タイトル | 文春e-book よむよむかたる |
|---|---|
| 著者 | 朝倉かすみ【著】 |
| 出版社 | 文藝春秋 |
| 発売日 | 2024/09 |
| ジャンル | 文芸(一般文芸) |
| ISBN | 9784163918976 |
| 価格 | ¥1,800 |
本を読み、人生を語る、みんなの大切な時間この小説は、著者の母が参加していた読書会の風景がきっかけで生まれました。本を読み、人生を語る。人が生のままの姿になり言葉が溢れだす。そんな幸福な時間をぎゅっと閉じ込めたい、という願いが込められた物語です。〈あらすじ〉小樽の古民家カフェ「喫茶シトロン」には今日も老人たちが集まる。月に一度の読書会〈坂の途中で本を読む会〉は今年で20年目を迎える。店長の安田松生は、28歳。小説の新人賞を受賞し、本を一冊出したが、それ以降は小説を書けないでいる。昨年叔母の美智留から店の運営を引き継いだばかりだ。その「引き継ぎ」の一つに〈坂の途中で本を読む会〉のお世話も含まれる。何しろこの会は最年長92歳、最年少78歳、平均年齢85歳の超高齢読書サークル。それぞれに人の話を聞かないから予定は決まらないし、連絡は一度だけで伝わることもない。持病の一つや二つは当たり前で、毎月集まれていることが奇跡的でもある。安田は店長の責務として世話係だけをするつもりだったが、「小説家」であることを見込まれて、この会の一員となる。安田は読書会に対しても斜に構えていた。二作目が書けない鬱屈がそうさせていたのかもしれない。しかし、読書会に参加し、自分でも老人たちと「語る」ことで心境に変化が訪れる――。
本の概要(事実の説明)
舞台は北海道・小樽。古民家カフェ「喫茶シトロン」で月に一度開かれる読書会『坂の途中で本を読む会』には、最年長92歳から最年少78歳まで、6人の高齢者が集います。 そこに店を引き継いだ28歳の青年・安田が加わり、彼らは課題本『だれも知らない小さな国』を一節ずつ順番に音読し、それぞれの解釈や感想を語り合っていきます。 ただしこの読書会は、いわゆる「整然とした読書会」とは程遠く、話はしょっちゅう脱線し、ときに泣き出し、ときに笑い、日常のあれこれへどんどん流れていきます。 読書を通して人とつながり直す物語であり、老いと死が遠くない人たちの時間の尊さが描かれている小説だと感じました。
印象に残った部分・面白かった点
本作の魅力は、とにかく会話が生き生きしていることです。読書会の時間は「感想発表」というより、人生の雑談と回想と、思いつきの嵐でできていて、その自由さが微笑ましくもありました。 前半は正直、方言と話の飛び方に慣れず、「これ、どこへ向かうんだろう」と感じた部分もあります。けれど、それこそが『坂の途中で読む会』の空気で、読み手の私まで「馴染む」ことが求められるように思えました。 また、ただ賑やかで温かいだけでは終わらないところも印象的です。 読書会が20年続いているという事実が、すでに奇跡みたいなのに、彼らは全員「永遠ではない」ことを知っています。入退院を繰り返す人がいて、残される家族が疲弊していき、そして会員の一人が突然亡くなる。 そういう出来事があるからこそ、この読書会の時間が「余暇」ではなく「生きるための場所」として浮かび上がるのだと思いました。 特に、井上さんという人物の存在感が良くて、物語に独特の芯が通る感じがしました。 終盤、表紙の女の子の意味が回収される瞬間も含め、最後はきちんと「いい話」で着地するのに、押しつけがましさが少ないのが良かったです。
本をどう解釈したか
この作品が投げかけている問いは、「読書とは何のためにするのか」ではなく、もう少し広く「人はどうやって生き延びるのか」だと感じました。 登場人物たちはそれぞれに傷を持っています。離婚の痛み、戦後の空白、家族の死、老いていく不安。 でも読書会の場では、その傷は「語ってもいいもの」になり、笑い話にもなり、誰かの理解や共感に変わっていきます。 そして世話役のように見える安田自身も、実は「書けなくなった作家」で、心の中に腫瘤のようなものを抱えている。 読書会は高齢者の生きがいであると同時に、若者の側をも救ってしまう場所として描かれているのが、作品の優しさだと感じました。
読後に考えたこと・自分への影響
読み終えて、いちばん残ったのは「仲間がいること」の強さでした。 人生の終盤に差しかかっても、定期的に集まれる場所があり、遠慮なくくだらない話ができる。しかもそれが「読書会」という形をしている。羨ましい、と素直に思いました。 また、人は年を取っても「変わっていく」し、「救われていく」のだという気づきもありました。 老いは衰えだけじゃなく、経験や関係性が積み上がっていく時間でもある。そのことを、押しつけではなく会話の温度で伝えてくれる作品だと思います。
この本が合う人・おすすめの読書シーン
これは、忙しい合間に一気読みするよりも、少しゆるい時間に読むのが合っている小説だと感じました。 休日の午後、飲み物をそばに置いて、会話の脱線に付き合うような気持ちで読むと、作品のテンポに馴染みやすいです。 読み終えたあとに人と話したくなったり、誰かと本を読みたくなったりするので、夜に読み切ってしまうより、明日も少し余韻を残せる時間帯が合うように思えました。
『よむよむかたる』(朝倉かすみ・著)レビューまとめ
最初は馴染むのに時間がかかるかもしれません。けれど、読書会の輪の中に入れたとき、この物語は確かな温度を持ってこちらへ届いてきます。
老いと死が近いからこそ生まれる賑やかさと、かけがえのなさ。読み終えたあとは「場所」と「仲間」のありがたさを、静かに噛みしめたくなる一冊でした。
読後の余韻を深めるための読書サービス
この本は、読み終えた瞬間に何かが完結するというより、あとから静かに効いてくるタイプの一冊だったように感じました。
ページを閉じたあとも、ふとした瞬間に言葉や場面を思い出して、「もう一度考えてみたい」と思わせる余韻が残ります。
もし、そうした感覚をもう少し大切にしたいなら、文字とは違うかたちで触れ直すのも一つの方法です。
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移動中や家事の合間など、日常の中で考え続ける時間をつくりたい人には、無理のない選択肢だと思いました。
一方で、「まず全体像を整理してから向き合いたい」「もう少し軽い入口がほしい」と感じることもあります。
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