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『図書室のはこぶね』(名取佐和子・著)レビュー|伝統は誰のためにあるのか?

小説・文学

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「図書室」って、学生の頃たしかに使っていたのに、そこにいる人の仕事や、図書委員の活動をちゃんと意識したことって案外少ない気がします。私もこの本を読むまでは、図書室は“静かで、本がある場所”くらいの認識でした。 でも『図書室のはこぶね』は、その静かな場所に、思いもよらない熱を灯してくる物語でした。図書室で見つかった、メモが挟まれた一冊の本。その小さな違和感が、いつの間にか生徒たちの心の奥、そして学校の「伝統」そのものへ繋がっていく。 読み始めたときはミステリーっぽい面白さに惹かれたのに、読了後に残ったのは“ちゃんと考えたくなる余韻”でした。

【書誌情報】

タイトル実業之日本社文庫 図書室のはこぶね
著者名取佐和子
出版社実業之日本社
発売日2025/08
ジャンルミステリー
ISBN9784408559544
価格¥891
出版社の内容紹介

10年ぶりに返却された本の謎――「はこぶね」のような図書室がつなぐ〈本と人〉の物語10年前に貸し出されたままだったケストナーの『飛ぶ教室』は、なぜいま野亜高校の図書室に戻ってきたのか。体育祭を控え校内が沸き立つなか、1冊の本に秘められたドラマが動き出す。未来はまだ見えなくても歩みを進める高校生たちと、それぞれの人生を歩んできた卒業生たち――海を見渡せる図書室を舞台に描く、感動の青春小説!第71回「青少年読書感想文全国コンクール」課題図書『銀河の図書室』の原点の物語解説/松井ゆかり装画/カシワイ

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本の概要(事実の説明)

舞台は、神奈川県三浦半島の海沿いの県立高校をイメージさせる「県立野亜高校」。その図書室と図書委員会が物語の中心になります。 ジャンルとしては、青春小説であり、ミステリー要素も強く、本が好きな人にはたまらない“本の匂いのする物語”でした。図書室にある本が単なる小道具ではなく、生徒たちの心や過去を照らす役割として機能しているのが印象的です。 物語の軸となるのは、10年ぶりに返却された『飛ぶ教室』に挟まれた謎のメモ。その謎解きが進むにつれ、現在の高校生活、そして体育祭の伝統行事「土曜日のダンス(通称:土ダン)」にも火がついていきます。 あらすじとしては、「本に挟まれたメモの正体」と「学校の伝統」をめぐる問題が絡まりながら進み、体育祭の日に向けて、生徒たちが自分たちの答えを探していく流れです。 向いている読者は、青春×謎解きが好きな人はもちろん、“伝統”という言葉にどこかモヤっとする人、学校や組織の「空気」の圧に疲れたことがある人にも刺さると思いました。

印象に残った部分・面白かった点

この本で特に良かったのは、「図書室」という場所が持つ温度を、静かに、でもしっかり描いているところです。図書委員や司書の先生の仕事が丁寧に描かれていて、気づけば“図書室のお仕事小説”としても読めてしまいます。 そして謎解きが、派手な事件ではなく、“本に挟まれたメモ”という小さな入口から始まるのがとても好みでした。誰かの秘密や過去って、こういう形で残っているのかもしれない、と感じさせられるリアリティがあります。 もうひとつ強く残ったのが、「大多数の正義が全員の正義とは限らない」という視点です。土ダンという伝統行事が、好きな人には誇りになる一方で、参加できない人・排除される人がいる。そこに気づいてしまった高校生たちが、ぐんぐん進んでいく後半の熱量が爽やかでした。 読んでいて切ないところもあるのに、最後は“優しさ”に着地する。それがこの物語の強さだと思います。

本をどう解釈したか

この作品が投げかける問いは、思った以上に社会的です。 「伝統は守るべきもの」とよく言われるけれど、守ることが誰かの痛みや不自由と引き換えになっているなら、それは本当に“守るべきもの”なのか。 作中では、伝統を変える=何かを壊すことではなく、「より良い方向に更新すること」として描かれていたように感じました。伝統が枷になる瞬間を知ってしまった生徒たちが、怒りだけで突っ走るのではなく、納得解を探していく姿がまぶしかったです。 また、過去の謎が現在とつながっていく構成は、「時間は途切れない」という感覚もくれました。学校という場所には、卒業した人たちの思いがちゃんと残っていて、でも今の人たちが変えていける。その両方が書かれていたのがよかったです。

読後に考えたこと・自分への影響

読み終わったあと、私は「図書室っていいな」と素直に思っていました。 それは単に本がたくさんある場所という意味ではなく、誰かが迷ったり傷ついたりしながらも、戻ってこられる場所としての図書室です。 それからもう一つ、「立場の数だけ正義がある」という言葉が残りました。自分が正しいと思っていることが、別の人にとっては痛みになる。だからこそ、想像して、話して、更新していく必要がある。 この本は、読後すぐに人生が変わるタイプの自己啓発ではありません。でも、“自分の考え方を少し柔らかくする”力がある本だと思いました。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

この本は、休日の午後に合います。 窓から光が入る部屋で、お茶でも飲みながら、図書室の空気にゆっくり浸るように読むのが一番しっくりきました。 サクサク読めるのに、読後にじわっと考えが残るので、読み終えたあとに少しぼーっとできる時間がある日がいいと思います。 そしてできれば、読み終えたあと、図書館に行きたくなる余裕があると最高です。作中に登場する本たちが、次の読書の扉になってくれるので。

『図書室のはこぶね』(名取佐和子・著)レビューまとめ

図書室で見つかった一冊の本の謎が、過去と現在をつなぎ、学校の“伝統”を問い直していく物語でした。

ミステリーとして面白いのに、読み終えると優しさが残る。

静かな場所から始まる熱い青春が、最後にちゃんと心を整えてくれる一冊だと思います。

読後の余韻を深めるための読書サービス

この本は、読み終えた瞬間に何かが完結するというより、あとから静かに効いてくるタイプの一冊だったように感じました。

ページを閉じたあとも、ふとした瞬間に言葉や場面を思い出して、「もう一度考えてみたい」と思わせる余韻が残ります。

もし、そうした感覚をもう少し大切にしたいなら、文字とは違うかたちで触れ直すのも一つの方法です。

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移動中や家事の合間など、日常の中で考え続ける時間をつくりたい人には、無理のない選択肢だと思いました。

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