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『小説』(野崎まど・著)レビュー|読むだけじゃ駄目なのか?

小説・文学

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本を読むことに、どこか後ろめたさを感じたことがある人は少なくないと思います。私自身も、やるべきことを後回しにしてページをめくる時間に、理由のわからない罪悪感を覚えることがあります。 『小説』は、そんな感情に真正面から向き合う作品でした。読み始めは淡々としているのに、次第に息継ぎを許さない密度に引き込まれ、気づけば「読むこと」そのものを問われている感覚になります。

【書誌情報】

タイトル小説
著者野崎まど【著】
出版社講談社
発売日2024/11
ジャンル文芸(一般文芸)
ISBN9784065373262
価格¥2,035
出版社の内容紹介

我々は、なぜ小説を読むのか。五歳で読んだ『走れメロス』をきっかけに、内海集司の人生は小説にささげられることになった。複雑な人間の昇華体であり、人の心を掴んで離さない、人の心が作り出した物語の結晶。そこには望むもののすべてがあった。十二歳になると、内海集司は小説の魅力を共有できる生涯の友・外崎真と出会う。二人は小説家が住んでいるというモジャ屋敷に潜り込む。そこでは好きなだけ本を読んでいても怒られることはなく、小説家・髭先生は二人の小説世界をさらに豊かにしていく。しかし、その屋敷にはある秘密があった。小説を書くことで失われる世界の均衡、読むことで広がる無限の心。宇宙最高の愉悦のすべてが、今明らかになる。

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本の概要(事実の説明)

ジャンルは文学小説でありながら、読書論や思想小説の側面も強い作品です。テーマは一貫して「小説を読むとは何か」「読むだけの人生は肯定されるのか」。 著者は野崎まど。 物語は、小説を読むことにすべてを捧げてきた内海集司の少年期から大人になるまでの人生を軸に進みます。唯一の友・外崎真との関係、小説家・髭先生との出会いを通して、読む側と書く側の分岐が描かれていきます。 読書が好きであることに迷いや引け目を感じたことのある人に、特に向いている作品だと思いました。

印象に残った部分・面白かった点

最も強く心に残ったのは、「読むだけじゃ駄目なのか」という内海の叫びです。その言葉は、物語の中だけでなく、読者自身の胸にも突き刺さります。 また、章立てのない構成が、思考が止まらない読書体験を生み出しており、後半に向かうにつれて物語が一気に宇宙的な広がりを見せる点も強烈でした。小説愛が過剰なほどに詰め込まれているからこそ、好みは分かれるものの、忘れがたい読後感を残します。

本をどう解釈したか

この作品が投げかけるのは、「生産しない読者は無意味なのか」という問いだと感じました。 野崎まどは、読む行為そのものを、世界を内側から豊かにする営みとして描いています。書くことだけが価値ではない、読むこともまた宇宙の法則に連なる行為なのだという視点は、非常に挑戦的であり、同時に救いでもあるように思えました。

読後に考えたこと・自分への影響

読み終えたあと、「読むだけでいい」と言われたような気持ちになりました。それは怠惰の肯定ではなく、読むことを愛してきた時間そのものへの承認です。 小説に救われてきた記憶を持つ人ほど、自分の読書体験を肯定していいのだと、静かに背中を押されたように感じました。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

夜、すべての用事が終わったあと、静かな部屋で読むのが似合う一冊です。 誰にも邪魔されず、自分がなぜ物語を求めてきたのかを振り返りたい時間に、この作品は深く染み込んできます。

『小説』(野崎まど・著)レビューまとめ

『小説』は、「読むだけの人生」に意味を与え直す物語でした。

読むことを愛してきた自分を、そっと肯定してくれる一冊だと感じます。

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