
『みどりいせき』は、読み始めた瞬間から「普通の小説の読み方」を外してくる本でした。イントロなしで降り注ぐ言葉のシャワー。若者言葉、スラング、アングラなボキャブラリーが、意味より先に“音”として身体に当たってくる感じがして、最初は正直、戸惑いました。 それでもページを進めているうちに、理解より先にリズムが掴めてくる瞬間があって、そこから急に没入していく。読書なのに、どこかトリップに近い体験だったように思えます。 ただ、その没入が気持ちいい人もいれば、「で、結局なにが言いたいの?」と置いていかれる人もいる。私はその両方の気配を感じながら、最後まで読まされました。
【書誌情報】
| タイトル | 集英社文芸単行本 みどりいせき |
|---|---|
| 著者 | 大田ステファニー歓人【著】 |
| 出版社 | 集英社 |
| 発売日 | 2024/02 |
| ジャンル | 文芸(一般文芸) |
| ISBN | 9784087718614 |
| 価格 | ¥1,870 |
【第37回三島由紀夫賞受賞作】【第47回すばる文学賞受賞作】【選考委員激賞!】私の中にある「小説」のイメージや定義を覆してくれた。――金原ひとみさんこの青春小説の主役は、語り手でも登場人物でもなく生成されるバイブスそのもの――川上未映子さん(選評より)このままじゃ不登校んなるなぁと思いながら、高2の僕は小学生の時にバッテリーを組んでた一個下の春と再会した。そしたら一瞬にして、僕は怪しい闇バイトに巻き込まれ始めた……。でも、見たり聞いたりした世界が全てじゃなくって、その裏には、というか普通の人が合わせるピントの外側にはまったく知らない世界がぼやけて広がってた――。圧倒的中毒性! 超ド級のデビュー作!ティーンたちの連帯と、不条理な世の中への抵抗を描く第47回すばる文学賞受賞作。
本の概要(事実の説明)
ジャンルとしては、青春小説の顔をしながら、扱う温度はかなりアングラ寄りです。学校に馴染めない「僕」が、保健室や屋上のような“端っこ”の空気をまといながら、アウトサイドなギャル二人組と出会い、そこから新しいドアを次々と開けていく。 ドラッグや違法バイトといった危うい要素が出てくるのに、妙に悲壮感が薄いのが特徴で、むしろノリとパッションのまま、一直線にストーリーが進んでいきます。 テーマは「居場所」や「紐帯」、そして世界のピントがずれるような感覚だと感じましたが、作品はそれを丁寧に説明しません。読者が“音”と“体温”から受け取るタイプの物語です。 向いている読者は、きれいに整った爽やか青春より、もっと生々しい青春の脂っこさや、言葉の乱反射を浴びたい人だと思います。
印象に残った部分・面白かった点
何より印象に残ったのは、文章が「意味を運ぶ」より先に「呼吸を運ぶ」ことでした。SNSや口語の日本語をそのまま文章に起こしたような生感があって、読みづらいのに、妙にリアルだと感じる瞬間がある。 この文体は、ラップっぽいと言われることもあるけれど、私はむしろ流体のように、溶けて流れて、形を固定しない感触がありました。だから、ソリッドな文章を求める人には最後まで合わないかもしれません。 そして、登場人物たちの配置も強い。女子高生ギャル三人組の濃さと、冴えない「僕」の取り合わせが、読ませる推進力になっている。危うい世界へ踏み込んでいくのに、妙に“青春している”と感じるのは、彼らの関係性が、社会の正面からこぼれ落ちた場所で育っていくからだと思いました。
本をどう解釈したか
この作品が投げかけている問いは、「正しい人生」を説くものではなく、むしろ逆です。 ルールに従え、危ないことはやめろ、と言い切る簡単さを、作品はわざと選ばない。その代わりに、世界の外側に押し出された若さが、どんな言葉で、どんな速度で、どこへ流れていくのかを見せようとしているように感じました。 ドラッグや闇バイトの危うさは、派手に断罪されません。でも“正当化はしない”という距離感が、読者の中で勝手に倫理を立ち上げる。だから読みながら、気持ちよさと気持ち悪さが混じるのだと思います。 そして「僕」と春(あるいは周囲のギャルたち)との距離が、言葉のリズムの中で近づいたり離れたりする。絆を描いているのに、安定した“いい話”には収まらない。そのざらつきこそが、この本の芯なのかもしれません。
読後に考えたこと・自分への影響
読み終えて残ったのは、「わかる/わからない」で切れない読後感でした。 ストーリー自体は一直線で、置いていかれるほど複雑ではないのに、主題を“説明してくれない”から、読者は自分の感性で回収するしかない。そこが刺さる人もいれば、空虚に感じる人もいるはずです。 私が強く感じたのは、青春の輝きというより、青春が持つ“脆さ”のほうでした。社会の外側で見つけた居場所は、濃くて熱いのに、ずっとそこにいられる保証はない。その不安定さが、言葉の洪水の中で、妙に現実味を帯びて残ります。 「人工的に爽やかな青春が苦手」という人には、この本の生臭さは救いになるかもしれないし、逆に「理由や背景を丁寧に追いたい」人には、ノリの波が濃すぎて疲れるかもしれません。
この本が合う人・おすすめの読書シーン
これは明るい昼より、夜のほうが合う気がします。 部屋が静かで、外の音が減って、文字の“音”だけが際立つ時間。意味が追えない単語があっても、いったん流して、リズムで受け取れる。 少し疲れていて、思考をきっちり組み立てる読書ではなく、感覚で浴びる読書がしたい夜に、ちょうどいい一冊だと思いました。
『みどりいせき』(大田ステファニー歓人・著)レビューまとめ
言葉の洪水に飲まれながら、アウトサイドの青春の熱と危うさを目撃する本でした。
刺さる人には“新鮮な生感”、合わない人には“中身が掴めない”——その割れ方ごと含めて、今っぽい読書体験が残ります。
読後の余韻を深めるための読書サービス
この本は、読み終えた瞬間に何かが完結するというより、あとから静かに効いてくるタイプの一冊だったように感じました。
ページを閉じたあとも、ふとした瞬間に言葉や場面を思い出して、「もう一度考えてみたい」と思わせる余韻が残ります。
もし、そうした感覚をもう少し大切にしたいなら、文字とは違うかたちで触れ直すのも一つの方法です。
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移動中や家事の合間など、日常の中で考え続ける時間をつくりたい人には、無理のない選択肢だと思いました。


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