本好きの中学生・高校生におすすめしたい“本にまつわる物語”
本に囲まれる時間は、好きな人にとっては特別な癒やしです。
静かにページをめくる音、紙の匂い、背表紙が揃った棚を眺める時間……。
図書館や本屋さんは、ただ本が置いてある場所ではなく、誰かの悩みがほどけたり、新しい自分を見つけられたりする「人生を変える入り口」でもあります。
今回紹介する12冊は、そんな“本の聖地”が舞台の小説たち。
しかも、中学・高校入試でも出題された信頼の作品ばかりなので、読み応えやテーマ性も折り紙付きです。
物語の中で登場人物たちが抱える不安や孤独、喜びや成長を追体験することで、読者自身も「本と生きる楽しさ」にきっと気づけるはず。
本好きの仲間を増やしたい人にも、読書習慣をつけたい学生さんにもぴったりのラインナップです。
- 本を守ろうとする猫の話/夏川草介(小学館)
- 図書室のはこぶね/名取佐和子(実業之日本社)
- 教室に並んだ背表紙/相沢沙呼(集英社文庫)
- 晴れた日は図書館へいこう/緑川聖司(ポプラ社)
- 君と読む場所/三川みり(新潮文庫nex)
- 図書室のキリギリス/竹内真(双葉文庫)
- 図書室のピーナッツ/竹内真(双葉文庫)
- お探し物は図書室まで/青山美智子(ポプラ文庫)
- 虹いろ図書館のへびおとこ/櫻井とりお(河出書房新社)
- 麦本三歩の好きなもの/住野よる(幻冬舎文庫)
- ぶたぶた図書館/矢崎存美(光文社文庫)
- 本屋さんのダイアナ/柚木麻子(新潮文庫)
本を守ろうとする猫の話(夏川草介)

この作品は 2018年度 鷗友学園女子中学校の入試で出題 されました。特に「第二の迷宮《切りきざむ者》」の場面が取り上げられ、本を守る戦いの考え方を読み解く問題が出題されています。
亡き祖父の古書店を訪れた高校生・林太郎の前に、突然現れたのは“しゃべるトラネコ”。
この瞬間から、読者はファンタジーと現実の境目をふわりと超え、どこか懐かしいような異世界へと誘われます。
この物語の最大の魅力は「戦い方」です。
異世界ファンタジーなのに、主人公は剣も魔法も使いません。
代わりに使うのは――「あなたの本の話」。
本を読んだ人なら分かるはずです。
自分の好きな本のことを語る時、言葉の奥にある気持ちそのものが力になるということを。
この作品は、まさにその感覚を物語に落とし込んでいます。
さらに、背景には著者・夏川草介さんが医師であることも反映されており、
「本=人間」
というメタファーが随所に散りばめられています。
「本を守る」という行為を読み進めていくと、“人を守るとはどういうことか”という深くて温かいテーマに繋がっていることに気づき、読み手の心に静かに響きます。
可愛い表紙からは想像できない深い哲学性があり、読書量の多い学生ほど「なるほど……」と唸るはずです。
本が好きで、自分の愛する本たちと正面から向き合いたい人へ。
「本を守ろうとする猫の話」の作中に登場する本
- 『ジャン・クリストフ』
- 『ナルニア国物語』
- 『自負と偏見』(=“高慢と偏見”)
- 『アドルフ』
- 『百年の孤独』 …etc
図書室のはこぶね(名取佐和子)

2023年度 目黒日本大学中学校の入試で出題。 体育祭について百瀬・朔太郎・生徒会長らが話すシーンが選ばれ、登場人物の関係性や会話の意図を読み解く問題が出されました。
体育会系女子・百瀬が図書室で見つけた一枚のメモ。
それは「飛ぶ教室」の中にひっそり挟まっていた、謎めいた小さな手がかりでした。
最初はほんわかした“図書室ミステリー”のように始まりますが、ストーリーが進むにつれて、謎は思いもよらない方向へ深まっていきます。
本にまつわるささやかな偶然が、読み進めるうちに「運命」や「人の思いの連鎖」に変わっていく過程がとにかく巧妙。
さらに、天才ゲームクリエイターが作った“三択で最適な一冊を探し当てる検索システム”など、読書好きの心をくすぐる仕掛けが満載。
巻末の「朔太郎くんのおすすめ本リスト」も、読書案内として優秀です。
学生たちの悩みや成長がさりげなく織り込まれており、
「自分のことを理解してくれる本って必ずあるんだ」
というメッセージがまっすぐ届く優しい青春ミステリーです。
教室に並んだ背表紙(相沢沙呼)

この作品は複数の学校で出題されています。
駒場東邦では短編「やさしいわたしの綴りかた」、大妻嵐山では「しおりを滲ませて、めくる先」が出題されました。
思春期の繊細な心がそのまま本になったような、胸にしみる連作短編集。
クラスで浮いてしまったり、友達関係がうまくいかなかったり、本音が言えなかったり。
誰もが一度は経験した“言葉にならない気持ち”がリアルに描かれています。
登場する6人の女子中学生は、誰もが違う悩みを抱えながら、それぞれの視点で物語を紡いでいきます。
そして、短編を読み進めるうちに、散りばめられたエピソード同士が少しずつつながり、最後にひとつの大きな“真実”が立ち上がってくる構成はお見事。
「自分の気持ちって、こんなに複雑だったな……」
と過去の自分と向き合うような読後感があり、女子の心を知りたい男子にも非常におすすめです。
晴れた日は図書館へいこう(緑川聖司)

2023年度 青山学院中等部の入試で出題。 図書館で起こる小さな日常事件を描いたエピソードから、人物の心情変化を問う問題が出題されています。
図書館に通う小学生のしおりちゃんが、毎回小さな事件に巻き込まれる日常ミステリー。
事件といっても大げさなものではなく、誰かの秘密や勘違い、願いがふとしたきっかけで明らかになるような、図書館ならではの温かい雰囲気が漂います。
読者はしおりちゃんの目を通して「本はただ読むだけのものじゃない」と気づかされます。
本は、誰かの気持ちを代わりに伝えたり、人と人をそっとつなげたりする力を持っている。
そのことを物語全体が自然に教えてくれるのです。
シリーズ化もされているので、“図書館の空気が好きな人”には特に延々と浸れる世界です。
君と読む場所(三川みり)

2020年度 埼玉県立高校の入試で出題。 中学生の有季が本と出会う過程や、自動販売機の意味づけを考察する読解問題として扱われました。
100円入れるだけで「おすすめ本10冊セット」が出てくる自動販売機。
そんなワクワクする仕掛けが登場することで、一気に物語の世界観に惹き込まれます。
中学3年生の有季は、図書館で職場体験をすることになり、そこで出会う人たちや本を通して「読み手と物語の関係性」を深く考えるようになります。
作品中に登場する
・『さぶ』
・『ライ麦畑でつかまえて』
などの名作へのオマージュは、本好きにはたまらないポイント。
読んだ後、自分がこれまで手に取ってきた本たちの意味をあらためて考えたくなる、深い余韻のある連作短編集です。
「君と読む場所」の作中に登場する本
- 『さぶ』
- 『ライ麦畑でつかまえて』
- 『空白を満たしなさい』
- 『さがしもの』
図書室のキリギリス(竹内真)

2022年度 日本大学藤沢中学校の入試で出題。 司書として働き始めた詩織の成長や、図書室の役割が問われる文章が扱われました。
司書という職業に興味がある人にとって、まさに“教科書”のような一冊。
主人公の詩織は、思いがけず高校図書室で司書として働くことになりますが、生徒や本と向き合ううちに「自分の居場所」が次第に形になっていきます。
物語の中で描かれる活動は、本好きには夢のよう。
- ブックトーク
- 読書会
- おすすめキャッチコピーのコンテスト
図書室が“本を読むだけの場所”ではなく、人が集まり、考え、話す場所だと気づかされます。
図書室のピーナッツ(竹内真)

2023年度 東京都立青山高校の入試で出題。 図書室ノートや生徒との交流を描く場面から、人物の思考や行動の背景を読み取る設問が出されました。
前作からさらにパワーアップした、詩織の奮闘記。
資格の取得、図書室の新しい企画、生徒たちとの関わり、さらに恋の気配まで加わって、
“司書という仕事の面白さ”が多面的に描かれます。
読書嫌いだった生徒が、本によって変わっていく姿や、
図書室が誰かの避難場所になったり、学びの拠点になったりする描写は胸にしみます。
巻末の「登場する本リスト」はそのまま“読みたい本リスト”に転用できます。
「図書室のピーナッツ」の作中に登場する本
- 『クローディアの秘密』
- 『ピーナッツ(スヌーピー)』
- 『ストーリー・ガール』
お探し物は図書室まで(青山美智子)

2022年度 埼玉県公立高校の入試で出題。 悩みを抱える人物と司書・小町さゆりの関わりから、再生のテーマを読み取る問題が登場しました。
小町さゆりさん――
見た目は強烈なのに、中身は誰よりも優しくて、相手の心にそっと寄り添う司書。
彼女の“本の処方箋”は、迷える人たちを再生へ導いていきます。
5つの短編に登場するのは、誰もが抱きやすい悩みを抱えた大人たち。
- 自分の人生に迷ったとき
- 仕事がうまくいかないとき
- 人間関係に疲れたとき
それぞれが、本との出会いをきっかけに新しい一歩を踏み出します。
読み終えると、心がぽっと温かくなり、「また明日も頑張ろう」と思わせてくれる力があります。
「お探し物は図書室まで」の作中に登場する本
- 『ぐりとぐら』
- 『新装版 月のとびら』
- 『英国王立園芸協会とたのしむ 植物のふしぎ』
- 『ビジュアル 進化の記録 ダーウィンたちの見た世界』
- 『げんげと蛙』
虹いろ図書館のへびおとこ(櫻井とりお)

2022年度 神奈川学園中学校の入試で出題。 ほのかが図書館で出会う人間関係や成長を描く場面が扱われています。
学校に行けなくなったほのかちゃんが毎日通う図書館。
そこで出会ったのは、体の半分が緑色の不思議な司書・イヌガミさん。
一見怪しいのに、実は誰よりも優しく、ほのかちゃんのSOSを敏感に察知してくれる存在です。
いじめを扱っていながらも、全体の雰囲気は暗くなく、主人公の明るさと前向きさが読者の心を救ってくれます。
図書館が“第三の居場所”として描かれている点も魅力で、子どもにも大人にも刺さるテーマ性が詰まっています。
「虹いろ図書館のへびおとこ」の作中に登場する本
- 『スイミー』
- 『ラチとらいおん』
- 『ドリトル先生』シリーズ
- 『ツバメ号とアマゾン号』
- 『指輪物語』
- 『グインサーガ』 …etc
麦本三歩の好きなもの(住野よる)

2020年度 福井県公立高校の入試で出題。 麦本三歩のマイペースさや、周囲の人々とのやり取りから人物像を読み解く問題が取り上げられました。
大学図書館に勤める新人司書・麦本三歩のマイペースで独特な毎日。
周りとテンポが合わなくても、うまくいかない日があっても、「まあいっか」と思わせてくれる不思議な魅力があります。
彼女が語る
「好きなものがたくさんあるから、毎日はきっと楽しい」
という言葉は、読者への優しいエールのよう。
忙しさに追われがちな現代の大人にも、学生にも、肩の力を抜いてくれる“癒やしの短編集”です。
ぶたぶた図書館(矢崎存美)

2020年度 豊島岡女子学園中学校の入試で出題。 図書館でのイベントに参加するぶたぶたの行動や、人に寄り添う姿勢を要約する問題が登場しました。
中身は中年男性なのに、見た目は“桜色の豚のぬいぐるみ”という強烈なキャラ・山崎ぶたぶた。
このギャップがクセになる大人気シリーズの図書館編。
図書館イベント「ぬいぐるみおとまり会」をめぐり、ぶたぶたさんは困っている人たちの気持ちをやさしく解きほぐしていきます。
ファンタジーでありながら、読後は驚くほど心が軽くなる作品。
シリーズを読み始めたら止まらない魅力があります。
「ぶたぶた図書館」の作中に登場する本
- 『トマシーナ』
- 『うろんな客』
- 『こんとあき』
- 『てつがくのライオン』
本屋さんのダイアナ(柚木麻子)

この作品は複数の学校で出題されています。
ダイアナと彩子の友情や、自己肯定につながる気づきを読み解く問題が主に扱われました。
自分の名前も髪も何もかもが嫌いな女の子・ダイアナ。
そんな彼女の世界を変えたのは、「本」と、もうひとりの少女・彩子との出会いでした。
全く違う家庭環境で育った二人が、本を通じて友情を育てていくストーリーは、“本好きにとって理想の展開”。
読んでいる側まで友情の喜びを感じられます。
生きづらさを抱える人に寄り添うテーマも深く、読後は「自分を受け入れるって、こういうことかもしれない」と気づける作品です。
「本屋さんのダイアナ」の作中に登場する本
- 『大草原の小さな家』
- 『若草物語』
- 『赤毛のアン』
- 『おちゃめなふたご』
- 『ライ麦畑でつかまえて』
- 『ジェーン・エア』
- 『悲しみよ こんにちは』
- 『長くつ下のピッピ』
- 『父の詫び状』
- 『幻の朱い実』 …etc
まとめ
図書館や本屋さんは、静かで落ち着く場所であると同時に、“人生の転機”をそっと用意してくれる不思議な場所でもあります。
今回紹介した12冊は、ただ「本が好き」という気持ちを楽しむだけでなく、
- 悩んだ時に寄り添ってくれる
- 自己肯定感を回復させてくれる
- 新しい価値観に出会わせてくれる
そんな力を持った物語ばかりです。
気になる1冊から読んでみてください。
あなたの“本好き人生”をさらに豊かにしてくれる仲間のような存在になるはずです。















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