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『恋とか愛とかやさしさなら』(一穂ミチ・著)レビュー|婚約者の性犯罪を許せると思いますか?

小説・文学

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この本は、タイトルのやわらかさとは裏腹に、かなり覚悟のいる物語でした。 プロポーズされた翌日、恋人が盗撮で逮捕される——その一文を見ただけで、胸の奥がざわついたのを覚えています。 読み始めは「これは他人事だ」と思おうとしましたが、ページを進めるほどに、もし自分だったらという想像が離れなくなりました。 恋や愛、そして“やさしさ”とは何なのか。読みながら何度も立ち止まらされました。

【書誌情報】

タイトル恋とか愛とかやさしさなら
出版社小学館
発売日2024/11
ジャンル文学
ISBN9784093867399
価格¥1,760
出版社の内容紹介

プロポーズされた翌日、恋人が盗撮で捕まった。直木賞受賞第一作。全国の書店から過去最大級の反響が殺到中の、著者新境地となる恋愛小説。

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本の概要(事実の説明)

ジャンルは恋愛小説でありながら、扱っているテーマは非常に社会的です。 著者は恋とか愛とかやさしさならの中で、「許すこと」「信じること」「加害と被害の断絶」を真正面から描いています。 物語は、婚約者が盗撮で捕まったことをきっかけに、新夏(にいか)が恋人・啓久との関係を見つめ直す前半と、加害者である啓久の視点に切り替わる後半の二部構成。 ネタバレを避けるなら、「一度起きてしまった出来事が、どれほど多くの人生を変えてしまうのか」を追体験する物語だと言えると思います。 安易な救いや答えを求める人より、「わからなさ」に向き合える読者に向いている作品です。

印象に残った部分・面白かった点

特に印象に残ったのは、「説明してもらえば納得できるのかすら分からない」という新夏の感情でした。 理由を聞けば前に進めるわけではない、その宙ぶらりんな苦しさが、淡々とした文体の中で際立っていたように感じます。 後半、啓久が自分の罪をどこかで軽く捉えていることを突きつけられる場面も強烈でした。 「自分はもうやらないから大丈夫」という認識と、被害者に残る傷の深さ。そのズレが、とても生々しく描かれていたからです。

本をどう解釈したか

この作品が投げかけている問いは、「許すか、許さないか」だけではないように思えました。 本当に問われているのは、「信じるという行為には中間が存在するのか」「愛は尊重を超えられるのか」という点ではないでしょうか。 著者は、どちらか一方に肩入れすることなく、読む側に判断を委ねています。 だからこそ、読者自身の価値観や無意識の偏りが浮き彫りになる作品だと感じました。

読後に考えたこと・自分への影響

読み終えて強く残ったのは、「知らなかった頃には戻れない」という事実でした。 一度“知ってしまった”後の関係は、たとえ続いたとしても、必ず形を変えてしまう。 それを受け入れることも、離れることも、どちらも簡単ではないのだと思わされました。 恋愛におけるやさしさは、必ずしも美しい形をしていない。 そのことを、静かに突きつけられた一冊でした。作中で示された 「0と1の間にあるハードルより、1と100の間にあるハードルのほうが遥かに低く見える」 という感覚に、強く納得しました。 一度でも境界を越えてしまった人を、もう一度“信じる”ことがどれほど難しいか。 それは理屈ではなく、感覚として私たちの中に根深く残るものなのだと感じました。 これが「信用」というものの正体なのかもしれません。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

この本は、時間に追われているときには向きません。 夜、ひとりで静かに過ごせる時間に、気持ちが多少沈んでも大丈夫な日に読むのがいいと思います。 読み終えたあと、すぐに次の本に手を伸ばすよりも、しばらく余韻に浸れる余白が必要な物語です。

『恋とか愛とかやさしさなら』(一穂ミチ・著)レビューまとめ

やさしいタイトルに油断して読むと、心の深いところを強く揺さぶられます。

許すこと、信じること、愛することの境界線を、自分自身に問い返したい人にこそ残る一冊だと感じました。

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