
ジブリ作品『魔女の宅急便』のラストを見終えたとき、「これでキキも一人前になったんだな」と安心してページを閉じるような気持ちになった人は多いと思います。私もその一人でした。 でも、この合本版を開いた瞬間に思い知らされます。私たちが知っているキキの物語は、序章に過ぎなかったのだと。 キキは13歳のまま終わりません。恋をして、傷ついて、間違えて、自分でも扱いきれない感情に振り回されながら、それでも暮らしを続けていきます。 読み進めるほどに、可愛らしい児童文学という安心感がほどけていって、「これは大人の人生の話だ」と感じました。
【書誌情報】
| タイトル | 角川文庫 新装版 魔女の宅急便 全6冊合本版 |
|---|---|
| 著者 | 角野栄子【著者】 |
| 出版社 | KADOKAWA |
| 発売日 | 2015/06 |
| ジャンル | 文芸(一般文芸) |
| 価格 | ¥3,300 |
お母さんは魔女、お父さんは普通の人、そのあいだに生まれた一人娘のキキ。魔女の世界には、十三歳になるとひとり立ちをする決まりがありました。満月の夜、黒猫のジジを相棒にほうきで空に飛びたったキキは、不安と期待に胸ふくらませ、コリコという海辺の町で「魔女の宅急便」屋さんを開きます。落ち込んだり励まされたりしながら、町にとけこみ、健やかに成長していく少女の様子を描いた不朽の名作。※本電子書籍は「新装版 魔女の宅急便」「新装版 魔女の宅急便 (2)キキと新しい魔法」「新装版 魔女の宅急便 (3)キキともうひとりの魔女」「新装版 魔女の宅急便 (4)キキの恋」「新装版 魔女の宅急便 (5)魔法のとまり木」「新装版 魔女の宅急便 (6)それぞれの旅立ち」をあわせ、新装版カバーになった6冊合本版です。本文にイラストは含まれておりません。
本の概要(事実の説明)
ジャンルとしては児童文学・ファンタジーに分類されると思いますが、全6巻をまとめて読むと、むしろ人生小説のような厚みがあります。 テーマは一貫して「自立」なのに、その自立は魔法を極めることではなく、日々の暮らしの中で揺れる心と折り合いをつけることとして描かれます。 著者は角野栄子さん。やさしい筆致なのに、人の感情のぐらつきや、言葉にならない弱さを逃さないところが印象的でした。 あらすじとしては、13歳で旅立ったキキがコリコの町で宅急便屋として暮らし始め、恋をし、年齢を重ねていく中で、仕事も関係性も変化していきます。後半では結婚・子育てまで描かれます。 向いている読者は、「ジブリのイメージのまま続きを知りたい人」よりもむしろ、「大人になった今の自分で読み直したい人」だと思います。
印象に残った部分・面白かった点
私が最も心を掴まれたのは、2巻以降に描かれるキキの感情の生々しさでした。 映画のキキは爽やかで、少し落ち込んでもすぐ前を向いていきます。でも原作のキキは、もっと執着します。待ちます。嫉妬します。期待します。そして、その期待が裏切られるたびに自分の小ささに苦しくなる。 遠距離恋愛という題材が、児童文学としては驚くほど残酷で現実的に描かれていて、「魔法が使えても、相手の心は動かせない」という無力感が胸に残りました。 とんぼの“悪気のなさ”もまた本当に厄介で、恋愛の痛さって、こういうところから生まれるんだよな…と妙に納得してしまいました。 そしてその痛さが決してドラマチックに救われないところが、逆にリアルでした。
本をどう解釈したか
このシリーズが投げかけてくる問いは、私は「自立とは何か」だと思います。 キキは仕事を持っています。生活力もあります。飛べるし、配達もできるし、町の人とも関係を築けています。 それでも彼女は、恋の前では崩れます。自分でも情けないと思いながら、相手の言葉一つで揺れます。 その姿が、私はものすごく人間的だと感じました。 角野栄子さんは「強い女性像」を描こうとしているのではなく、自立しているのに弱い、弱いのに生きていく、そういう矛盾をそのまま肯定してくれているように思えました。
読後に考えたこと・自分への影響
読み終えて残ったのは、「ちゃんと大人になるって、たぶん泥臭い」という感覚でした。 誰かを好きになることや、うまくいかない関係にしがみつくことは、成長の邪魔だと思われがちです。でもこの物語のキキは、そこで揺れきって、泣ききって、それでも生活の手を止めません。 私自身、年齢を重ねれば感情が落ち着くと思っていたけれど、たぶんそうじゃない。 むしろ、弱さと一緒に生きる技術を覚えるのが大人なのかもしれない。そんなふうに感じました。
この本が合う人・おすすめの読書シーン
この本は、軽く楽しく読むよりも、静かに気持ちが落ち着いているときに読みたいです。 夜、家事が終わって少しだけ自分の時間ができたとき。照明を落として、ページをめくる音だけがあるような時間。 キキの感情がじわじわと染みてくるので、休日の午後にじっくり読むのも合います。 読みながら、ふと自分の過去の恋や、言えなかった言葉を思い出してしまうようなタイプの本でした。
『魔女の宅急便 全6冊合本版』(角野栄子・著)レビューまとめ
ジブリ映画の爽やかな余韻の奥には、もっと長くて、もっと人間くさいキキの人生が続いていました。
恋をして傷ついて、それでも暮らしを手放さない。
この6冊は、私にとって「魔女の物語」ではなく、「弱さを抱えたまま生きていく人の物語」でした。
関連項目
読後の余韻を深めるための読書サービス
この本は、読み終えた瞬間に何かが完結するというより、あとから静かに効いてくるタイプの一冊だったように感じました。
ページを閉じたあとも、ふとした瞬間に言葉や場面を思い出して、「もう一度考えてみたい」と思わせる余韻が残ります。
もし、そうした感覚をもう少し大切にしたいなら、文字とは違うかたちで触れ直すのも一つの方法です。
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移動中や家事の合間など、日常の中で考え続ける時間をつくりたい人には、無理のない選択肢だと思いました。
一方で、「まず全体像を整理してから向き合いたい」「もう少し軽い入口がほしい」と感じることもあります。
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