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『海賊とよばれた男(下)』(百田尚樹・著)レビュー|日章丸事件は、なぜ日本の歴史を変えたのか?

小説・文学

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下巻を読み始めてすぐに、前巻とは異なる種類の緊張感が胸に広がっていきました。国岡鐵造が戦後の混乱を背景に、どれだけの覚悟で世界に向き合っていたのか。その姿を追いかけるうちに、ページをめくる手が自然と速くなっていったのを覚えています。 特に、日章丸事件が物語の中心に据えられる下巻では、国岡が何を守り、何に立ち向かっていたのかが鮮明に浮かび上がります。経済小説でありながら、歴史のうねりを直接肌で感じるような、心の振動を伴う読書体験でした。 読むほどに「これは単なる企業ドラマではない」と思えてきます。家族、社員、そして国を思う気持ちの強さが、どうしてこれほど胸を熱くするのか。その理由を探しながら読み進めた一冊でした。

【書誌情報】

タイトル講談社文庫 海賊とよばれた男(下)
著者百田尚樹【著】
出版社講談社
発売日2020/05
ジャンル歴史・時代小説
ISBN9784062778305
価格¥902
出版社の内容紹介

この男の生き様は美しい。本屋大賞の話題作。読まずに語るな。愛する家族、社員、そしてこの国の未来のために。この奇跡のような英雄たちは、実在した。敵は七人の魔女、待ち構えるのは英国海軍。ホルムズ海峡を突破せよ! 戦後、国際石油カルテル「セブン・シスターズ」に蹂躙される日本。内外の敵に包囲され窮地に陥った鐡造は乾坤一擲の勝負に出る。それは大英帝国に経済封鎖されたイランにタンカーを派遣すること。世界が驚倒した「日章丸事件」の真実。若き頃、小さな日本の海で海賊とよばれた男は、石油を武器に、世界と対峙する大きな野望を持っていた。「ゼロ」から全てが始まる。

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本の概要(事実の説明)

本作は、実在の人物・出光佐三をモデルにした国岡鐵造の一代記の後編にあたります。特に下巻では、石油メジャー「セブンシスターズ」が支配する国際石油市場で、日本企業として異例の戦いを挑む姿が描かれています。 物語の中心となるのは、イギリスによって経済封鎖されたイランに日章丸を送り出す「日章丸事件」。当時、石油を扱う日本は世界の大企業に圧倒され、主導権を握るどころか、対抗すら難しい状況でした。そんな国際情勢の中、国岡商店は国家規模の危機を背負いながら動き出すことになります。 また、鐵造と社員たちの関係も大きなテーマです。出勤簿も定年も設けず「店員は家族」という信念で関わる鐵造の姿勢は、現代では考えにくいほどの強い一体感を生み出していました。 読者としては、歴史的な事件の裏側を追体験しながら、リーダーシップとは何か、信念とはどう生まれるのかを考えさせられる内容に感じました。

印象に残った部分・面白かった点

最も心を揺さぶられたのは、なんと言っても日章丸がホルムズ海峡へ向かう場面でした。セブンシスターズの妨害に囲まれ、全世界が敵に回るような緊迫感の中で、鐵造が下した決断には並々ならぬ覚悟が滲んでいます。 その一方で、鐵造が決して独りで戦っているわけではないと感じさせる描写も印象的でした。長年支えてきた日田重太郎への恩を返すための行動や、忠義の厚い社員たちに見せる親身な姿勢は、単なる経営者と部下の関係ではありません。「家族として守る」という鉄造の価値観が、物語全体の温度を大きく支えていると感じました。 また、鐵造が高齢になってからも迷いなく突き進む姿は、読む側にも問いを投げかけてきます。「信念とはどこまで人を動かすのか」。読みながら、自分の生き方と重ねて考える瞬間が何度もありました。

本をどう解釈したか

この物語で最も強く伝わるのは、「信念が人を動かし、時代さえ変える」というテーマだと感じました。国岡鐵造が貫こうとしたのは、ただの利益追求ではなく、“日本人としての誇りを守ること”。その姿勢は戦後の不安定な社会の中で、多くの人の心を支える灯のような役割を果たしていました。 また、セブンシスターズによる圧倒的支配構造は、今の世界にも通じるものがあります。巨大企業同士が国家を動かす一方、個人の信念がそこにどう切り込めるのか。本作はその境界に挑んだ一人の男の物語でもありました。 鐵造に弱さがほとんど描かれないことを「非現実的」と感じる読者もいましたが、私はむしろ「理想が具現化した人物」として描かれているように思えました。だからこそ、読む側も自分の弱さと向き合いながら、どこか前へ進む勇気をもらえるのだと感じています。

読後に考えたこと・自分への影響

読み終えて強く感じたのは、「迷いよりも信じる力が人を動かす」ということでした。鐵造の信念の強さは、時に理解しがたいほど揺らぎがありません。でも、その揺らぎのなさこそが仲間を引きつけ、新しい可能性を生み出していくのだと思います。 また、鐵造が見せてきた「人を大切にする」姿勢は、現代の働き方とは大きく異なりますが、根本にある価値観は今も学ぶべき部分が多いと感じました。効率より信頼、利益より誇り。そんな優先順位で動いたからこそ、日章丸事件という歴史的な偉業につながったのだと理解できました。 何より、先人たちの気骨や覚悟を知ることで、自分の日々の仕事への向き合い方にも変化が生まれました。小さな選択でも、自分が信じる方向へ踏み出したいという気持ちが強くなった一冊でした。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

下巻は特に緊迫した展開が続くので、静かな夜にじっくり読み進める時間が合っていると思いました。ゆっくり呼吸を落ち着けながら鐵造の決断を追っていくと、当時の空気がより鮮明に立ち上がってきます。 また、休日の午前中に少し長めの時間を確保して読むのもおすすめです。戦後日本の歴史を一気に駆け抜ける物語なので、集中して没頭できる環境のほうが感情の流れをつかみやすいと感じました。

『海賊とよばれた男(下)』(百田尚樹・著)レビューまとめ

下巻は、国岡鐵造の信念がどれほど多くの人を動かし、歴史的な壁を突破していったのかを強く感じさせる一冊でした。日章丸事件という大きな山場を通して「信念は時代を変える」という力を改めて実感した読書体験でした。

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