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『舟を編む』(三浦しをん・著)レビュー|なぜ、辞書づくりの物語はこれほど心を揺さぶるのか?

小説・文学

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『舟を編む』は、「辞書編集」という一見地味に思えるテーマを扱いながら、読むほどに胸の奥が温かくなる不思議な小説でした。辞書をつくるとは、ただ言葉を並べる作業ではなく、人が積み重ねてきた思いや世界の広さに触れる営みなのだと気づかされます。 私自身、辞書は学生時代に使って以来、身近な存在ではありませんでした。しかし本作を読み進めるうちに「辞書ってこんなにも魂のこもった仕事なのか」と驚きを隠せませんでした。まじめで不器用な主人公・馬締光也が、言葉の奥にある意味と人の気持ちをすくい取ろうとする姿は、読む人の心に深く残るものがありました。 そして何より、辞書づくりに人生を賭ける人々の喜びや挫折、情熱が丁寧に描かれていて、仕事というものの尊さを改めて感じさせてくれました。「こんなにも一生懸命に働く姿を見られる小説があるんだ」と、読了後には静かな感動が広がっていました。

【書誌情報】

タイトル光文社文庫 舟を編む
著者三浦しをん
出版社光文社
発売日2015/03
ジャンル文芸(一般文芸)
ISBN9784334768805
価格¥660
出版社の内容紹介

出版社の営業部員・馬締光也(まじめみつや)は、言葉への鋭いセンスを買われ、辞書編集部に引き抜かれた。新しい辞書「大渡海(だいとかい)」の完成に向け、彼と編集部の面々の長い長い旅が始まる。定年間近のベテラン編集者。日本語研究に人生を捧げる老学者。辞書作りに情熱を持ち始める同僚たち。そして馬締がついに出会った運命の女性。不器用な人々の思いが胸を打つ本屋大賞受賞作! 馬締の恋文全文(?)収録!

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本の概要(事実の説明)

本作は、出版社の辞書編集部を舞台にした小説です。営業部にいた馬締光也が、言葉への鋭い感性を見込まれて編集部に誘われるところから物語は動き出します。そこで彼はベテラン編集者、学者、個性的な同僚たちと出会い、新辞書『大渡海』をつくる長い旅に加わっていきます。 辞書づくりは十数年単位の非常に長い仕事で、その地道さや困難さが丁寧に綴られています。しかし重いだけではなく、軽やかにユーモアを含みながら、言葉の奥にある人の想いや文化に触れる面白さが伝わってきました。 仕事小説が好きな人、成長物語が好きな人、そして言葉というものに興味がある人に強くおすすめできます。決して難しい内容ではなく、むしろ温かい人物描写が魅力の作品です。

印象に残った部分・面白かった点

最も心を揺さぶられたのは、辞書づくりの仲間たちの姿でした。それぞれに得意分野も性格も違うのに、言葉への愛情と辞書への誇りを持って動いていくチームワークが見事で、読んでいて胸が熱くなりました。 特に、ベテラン学者・松本先生の「言葉は、人が世界をどう見ているかを映す鏡」という言葉には強い重みがありました。辞書をつくるとは、世界と人の気持ちをつなぐ架け橋を編む作業なのだと感じられました。 また、馬締が出会う女性・香具矢との静かで温かい関係も印象に残りました。まっすぐすぎる馬締の姿に戸惑いながらも、彼の情熱に心を動かされていく様子が丁寧に描かれていて、「不器用でも真剣に向き合うことの価値」をそっと教えてくれました。 辞書の編纂というテーマで涙が出るとは思いませんでしたが、クライマックスにかけて積み重なってきた想いが溢れ、自然と目頭が熱くなりました。

本をどう解釈したか

本作は「言葉とは何か?」という問いを、さりげなく、しかし強く読者に投げかけているように思いました。言葉は人間の感情や思考を映すものであり、同時に人と人をつなぐための道具でもあります。 辞書をつくるという作業には、「誰かの理解を助けたい」「未来の誰かのために正確な言葉を残したい」という願いが深く込められています。馬締たちが『大渡海』に情熱を注ぐ姿には、単なる仕事を超えた使命感があり、その純粋さに胸が締めつけられました。 また、本作は「何かに夢中になることの尊さ」を描いているようにも感じました。夢中になって何かを続けると、世界は違って見える――そのメッセージが物語全体の基調になっているように思います。

読後に考えたこと・自分への影響

読み終えた後、「仕事に向き合う気持ち」が少し変わったように感じました。どんな仕事であっても、誰かの未来のために手を伸ばせる瞬間があり、その積み重ねが自分の人生を形づくるのだと気づかされました。 また、日常で何気なく使っている言葉が、じつは誰かの情熱と努力の結晶であることにハッとさせられました。言葉を丁寧に扱うことは、人を丁寧に扱うことなのだと感じられます。 私自身、もっと言葉を大切にし、もっと誠実に目の前の仕事に向き合いたいと思いました。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

この作品は、静かに落ち着いた時間に読むことで余韻が深く残ると思いました。 特におすすめなのは、 休日の午後、温かい飲み物をそばに置いてゆっくりページをめくる時間。 馬締のまっすぐな情熱や、辞書編集部の温かな空気が、ふっと心を緩めてくれます。 また、 自分の仕事に少し迷っているとき に読むと、初心を思い出させてくれるような励ましを感じました。

『舟を編む』(三浦しをん・著)レビューまとめ

『舟を編む』は、言葉に向き合う人々の誠実さと情熱を描いた、静かで力強い物語でした。辞書づくりというテーマを通して、「仕事に夢中になれることの幸福」と「人とのつながり」を優しく教えてくれる一冊です。

読後、言葉の世界が少しだけ美しく見えるようになる作品でした。

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