
図書館が舞台の物語と聞いただけで、少し胸が緩むような感覚がありました。そこに「ぶたぶた」が登場すると知り、これはきっと優しい話だろうと思いながら読み始めました。実際にページをめくると、その予感は裏切られず、けれど思っていた以上に、人の内側に踏み込んでくる物語だったと感じました。 今回のぶたぶたさんは、図書館イベント「ぬいぐるみおとまり会」のポスターのモデルという、少し変わった立ち位置で登場します。けれど、いつも通り彼は前に出すぎることなく、悩みを抱えた人たちの輪の中心で、静かにそこにいるだけです。その距離感が、とても心地よく感じられました。 読み進めるうちに、かわいらしさに笑いながらも、家族や喪失、孤独といった重さを含んだテーマが浮かび上がってきます。それでも読後に残るのは沈みではなく、ほっとした温度でした。
【書誌情報】
| タイトル | ぶたぶた図書館 |
|---|---|
| 著者 | 矢崎ありみ |
| 出版社 | 光文社 |
| 発売日 | 2014/03 |
| ジャンル | 文芸(一般文芸) |
| ISBN | 9784334765019 |
| 価格 | ¥539 |
本好きの中学生・雪音(ゆきね)と市立図書館の司書・寿美子(すみこ)は、「ぬいぐるみおとまり会」実現に奔走(ほんそう)していた。子供たちのぬいぐるみを預かり、夜の図書館での彼らの様子を撮影して贈る夢のある企画だ。絵本を読んだり、本の整理をして働くぬいぐるみたち。ポスター作りに悩む二人の前に、図書館業界では伝説的存在(?)の山崎(やまざき)ぶたぶたが現れて……。心温まる傑作ファンタジー。
本の概要(事実の説明)
『ぶたぶた図書館』は、矢崎ありみさんによる「ぶたぶた」シリーズ第16作にあたる作品です。図書館を舞台に、「ぬいぐるみおとまり会」という実在する図書館イベントをモチーフにした連作短編集として構成されています。 物語の中心には、図書館司書、中学生の本好きの少女、家族との関係に悩む母親、弟を亡くした元カメラマンなど、それぞれに事情を抱えた人たちがいます。そこへ、ぬいぐるみでありながら自然に会話をし、食事をし、本を語るぶたぶたが関わっていきます。 大きな事件が起こるわけではありませんが、図書館という場所と、本と、人との関係性が丁寧に描かれています。静かな物語が好きな方や、読書や図書館に思い入れのある方に向いている一冊だと感じました。
印象に残った部分・面白かった点
印象に残ったのは、ぶたぶたさんが「伝説の存在」や「アイドル的存在」として語られている点でした。実際には控えめで、誰かを導こうともしないのに、自然と人が集まってくる。その在り方が、とても象徴的に思えました。 また、「ぬいぐるみおとまり会」という企画そのものが、人の気持ちを動かす装置として機能している点も心に残りました。新しいことに挑戦しようとする司書の姿勢、再びカメラを手に取る元カメラマンの葛藤、親子関係に悩む母親の不安。それぞれが図書館という場を通して、ほんの少し前に進んでいきます。 ぶたぶたさんの言動にはユーモアがあり、食事の場面やモデルとしての自意識など、思わず笑ってしまう描写も多いのですが、その軽さがあるからこそ、重い感情も受け止められるように感じました。
本をどう解釈したか
この作品が投げかけている問いは、「居場所とは何か」「人はどうやって再び動き出せるのか」なのではないかと感じました。図書館は誰にでも開かれている場所ですが、実際にそこを居場所と感じられるかどうかは、人との関わり方次第なのだと思わされます。 ぶたぶたさんは助言を与える存在ではありません。ただ一緒に本を読み、食事をし、話を聞くだけです。それでも人が変わっていくのは、答えを与えられたからではなく、自分で気づく余白があったからだと感じました。 また、本がたくさん紹介される点も印象的でした。読書は正解を教えるものではなく、考えるきっかけを渡すものだという姿勢が、物語全体に流れているように思えました。
読後に考えたこと・自分への影響
読み終えて強く残ったのは、「完璧でなくてもいい」という感覚でした。登場人物たちは、誰も理想的ではありません。親として迷い、仕事に躓き、過去に囚われています。それでも、図書館という場で誰かと出会い、本を通して少しずつ自分の輪郭を取り戻していきます。 ぶたぶたさんの懐の深さや、他人の目を気にしすぎない姿勢は、簡単なようで難しいものです。それを説教ではなく、物語として見せてくれる点に、このシリーズの強さを感じました。 読後、図書館に足を運びたくなり、本棚を眺めながら「今の自分に必要な一冊は何だろう」と考えたくなりました。
この本が合う人・おすすめの読書シーン
静かな休日の午後、外の音が遠くに聞こえる時間帯に読むのが合っていると感じました。急いで読むよりも、短編を一つずつ味わいながら、間にお茶を挟むような読み方が心地よいです。 また、少し気持ちが疲れているときや、人との距離感に悩んでいるときにも向いていると思います。物語の世界に浸ることで、自分の呼吸が整っていくような感覚がありました。
『ぶたぶた図書館』(矢崎ありみ・著)レビューまとめ
図書館とぶたぶたという意外な組み合わせが、人の心の柔らかい部分にそっと触れてくる一冊でした。大きな答えは示されませんが、読む人それぞれが、自分なりの余韻を持ち帰れる物語だと感じました。


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