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『爆弾』(呉勝浩・著)レビュー|なぜ、この“狂気の対話”は読者の正義を揺さぶるのか?

小説・文学

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呉勝浩さんの『爆弾』は、読み進めるほど胸の奥がざわつく、非常に挑発的なミステリーでした。物語の大半は警察署の取調室で進むにもかかわらず、ページをめくる手が止まらず、まるで自分もそこで尋問を聞いているかのような錯覚を覚えました。 特に、“スズキタゴサク”という一見冴えない中年男の存在が、読んでいる私の感情を大きく揺さぶりました。彼の言葉は無礼で不快で、時に奇妙に理屈が通っていて、どう向き合えばいいのか判断がつかなくなるほどです。私自身も読みながら、何度も「この男はいったい何者なんだろう」と疑問が湧き続けました。 爆破予告と心理戦が同時進行する展開の緊迫感は、“正義とは何か”“人はどこまで自分を保てるのか”という問いを強く投げかけてくるように思えました。読後もその余韻がしばらく胸の中で渦巻き、簡単には抜け出せない作品でした。

【書誌情報】

タイトル講談社文庫 爆弾【電子限定特典付き】
著者呉勝浩【著】
出版社講談社
発売日2024/07
ジャンルミステリー
ISBN9784065363706
価格1,067
出版社の内容紹介

【ご購入者様限定・映画化記念画像データ2種類をプレゼント!(配布期間2025/10/31~2026/1/31)】★★★祝・W1位!!★★★日本最大級のミステリランキング、『このミステリーがすごい! 2023年版』(宝島社)、『ミステリが読みたい! 2023年版』(ハヤカワミステリマガジン2023年1月号)国内篇で驚異の2冠!!これを読まねば、“旬”のミステリーは語れない!◎第167回直木賞候補作◎◎各書評で大絶賛!!◎☆☆☆東京中に爆弾。怪物級ミステリ-!自称・スズキタゴサク。取調室に捕らわれた冴えない男が、突如「十時に爆発があります」と予言した。直後、秋葉原の廃ビルが爆発。爆破は三度、続くと言う。ただの“霊感”だと嘯くタゴサクに、警視庁特殊犯係の類家は情報を引き出すべく知能戦を挑む。炎上する東京。拡散する悪意を前に、正義は守れるか。【業界、震撼!】著者の集大成とも言うべき衝撃の爆弾サスペンスにしてミステリの爆弾。取扱注意。ーー大森望(書評家)この作家は自身の最高傑作をどこまで更新してゆくのだろうか。ーー千街晶之(書評家)登場人物の個々の物語であると同時に、正体の見えない集団というもののありようを描いた力作だ。ーー瀧井朝世(ライター)この作品を読むことで自分の悪意の総量がわかってしまう。ーー櫻井美怜(成田本店みなと高台店)爆風に備えよ。呉勝浩が正義を吹き飛ばす。ーー本間悠(うなぎBOOKS)自分はどちらの「誰か」になるのだろう。ーー山田麻紀子(書泉ブックタワー)※電子版には特典として、『法廷占拠 爆弾2』の「試し読み増量版」を収録しています。<映画化記念! 期間限定スペシャル表紙>2026年1月末日まで、映画化記念の期間限定特別表紙です。2026年2月1日以降は、順次元の表紙に差し替えられます。■映画『爆弾』2025 年10 月31 日公開出演:山田裕貴 佐藤二朗/他

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本の概要(事実の説明)

『爆弾』は、2023年本屋大賞ノミネート・直木賞候補にも挙がった話題作で、警察と自称“爆弾魔”の心理対話を軸に展開していくミステリー小説です。舞台は東京都の野方署。自販機破壊で確保された中年男・スズキタゴサクが、取調室で突然「十時に秋葉原で爆発がある」と告げるところから物語が始まります。 直後に実際の爆発事件が起こり、警察は一気に緊張状態に。スズキは続けて「ここから三度起きる」と告げ、取調室で刑事たちを翻弄しながら“ヒント”のような言葉を投げかけていきます。 章ごとに視点が切り替わる構成で、取調官、捜査員、さらには一般市民の心理まで立体的に描かれており、登場人物の弱さ・醜さ・正義への葛藤が生々しく伝わってきました。 ミステリーとしての手ごたえはもちろん、“人間の本質”を深く描いた作品でもあり、心理劇が好きな読者に向く一冊だと感じました。

印象に残った部分・面白かった点

最も強烈に印象に残ったのは、スズキタゴサクが刑事たちの心を“見抜いている”ように語る場面でした。とぼけた態度を取りながら、相手の弱点や迷いを鋭く突き、まるで心の中を覗き込んでいるかのように言い当ててしまう姿に、得体の知れない怖さを覚えました。 また、「九つの尻尾」という心理ゲームのような会話も忘れられません。抽象的な質問と不穏な含みを持つ言葉が続き、刑事たちだけでなく読んでいる私自身も試されているような感覚がありました。スズキの言葉は気味が悪いのに、どこか核心を突いているようにも聞こえ、その二面性が強烈でした。 終盤、ある刑事が「無意識のうちに子どもの命を選別していた」と示される場面は、胸の奥が冷たくなるほど重たいシーンでした。 “正義だと思っていた行動の裏にも、個人的な感情や弱さが潜んでいる”という事実を突きつけられ、私自身も目をそらせない気持ちになりました。

本をどう解釈したか

この物語は、単なる連続爆破事件を扱ったミステリーではなく、“正義と本心の分断”を描いているように感じました。社会の中で私たちは、理性や倫理、肩書きや役割によって自分を形づくっています。しかし、スズキはその“仮面”を剝がそうとする存在として描かれています。 彼の言葉の裏には「人間の本質は、善ではなくエゴと欲望ではないか」という極端な問いが潜んでいるように思えました。 一方、刑事たちはその問いに対する“答えを持たないまま仕事を続ける人々”として描かれ、その不完全さがとてもリアルでした。 スズキの発言をすべて肯定することはできませんが、彼が見ている“人間の弱さ”にはどこか納得してしまう部分もありました。 作者が描きたかったのは、善悪の二元論ではなく、「正義は誰のものなのか?」という問いそのものだったのかもしれない、と感じました。

読後に考えたこと・自分への影響

読後、最も強く残ったのは“人は想像以上に脆く、不安定な存在だ”という気づきでした。 作中では、警察官も市民も、皆が何らかの弱さを抱え、時に自分の正義を失いかけます。それでも現場に立ち続けるのは、完全な正義があるからではなく、「そうあろうとする意志」があるからなのだと思いました。 また、スズキの「もういいや」という言葉の重さも胸に残りました。人生のどこかで、人は誰もがこの境地に立つ可能性があり、そこで踏みとどまれるかどうかは、ほんの小さなきっかけや支えなのだと痛感しました。 この物語は、社会を支える“見えない努力”と“折れそうな心”の両方に目を向けるきっかけになるように思えました。 正義とは何か、人を裁くとはどういうことか——そんな問いを自然に考えさせられました。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

この作品は、落ち着いた環境でじっくり向き合う方が良いと感じました。心理描写が鋭く、感情の揺れが大きい作品なので、静かな休日の午後にコーヒーを淹れ、自分のペースで読み進めるのが合っていると思います。 また、気持ちが敏感になっている夜に読むと、スズキの言葉の重さがより深く突き刺さります。警察と犯人の対話による緊迫感は、夜の静けさと相性が良く、読み終えたあとにしばらく余韻に浸れる読書体験になると感じました。

『爆弾』(呉勝浩・著)レビューまとめ

『爆弾』は、事件の謎を追う物語でありながら、人の心の醜さや弱さ、そして曖昧な正義を真正面から描く挑戦的な作品でした。ページを閉じたあとも、“私たちはどこまで自分を制御できるのか”という問いが消えず、しばらく考え込んでしまいました。

読んでよかったと思える、強烈で忘れがたい一冊です。

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