
タイトルの「ミッドナイト」という響きに惹かれて読み始めました。深夜バスって、ただ目的地に運ばれるだけなのに、なぜか“いろんな感情の行き場”みたいなものが詰まっている気がします。読み進めるほど、登場人物たちの黙ったままの痛みや、言い出せなかった本音がじわじわ伝わってきて、胸の奥にくすぶるものが消えませんでした。読後、ため息が出るのに、どこか温かさも残る…そんな不思議な一冊でした。
【書誌情報】
| タイトル | 文春文庫 ミッドナイト・バス |
|---|---|
| 著者 | 伊吹有喜 |
| 出版社 | 文藝春秋 |
| 発売日 | 2016/09 |
| ジャンル | 文芸(一般文芸) |
| ISBN | 9784167906719 |
| 価格 | ¥815 |
男が運転する深夜バスに乗車してきたのは、16年前に別れた妻だった。壊れた「家族」という時計は再び動き出すのか――家族の再出発を描く感動長篇。第151回直木賞候補作!故郷に戻り、深夜バスの運転手として働く利一。子供たちも独立し、恋人との将来を考え始めた矢先、バスに乗車してきたのは、16年前に別れた妻だった。会社を辞めた長男、結婚と仕事の間で揺れる長女。人生の岐路で、忘れていた傷と向き合う家族たち。バスの乗客の人間模様を絡めながら、家族の再出発を描いた感動長篇。解説・吉田伸子
本の概要(事実の説明)
本作の軸にいるのは、東京―新潟を走る深夜バスの運転手・利一と、その家族です。バブル期に東京で働いていた利一は、今は新潟でバス運転手として暮らしています。離婚した妻・美雪、そして息子の怜司、娘の彩菜。家族は一度ばらばらになり、それぞれ別の場所で生きてきました。 物語は、深夜バスが“夜から朝へ向かって走る”ように、登場人物たちが長い夜を抱えたまま、それでも前に進もうとする姿を描いていきます。大きな事件で一気に変わるというより、すれ違いと気づきが積み重なっていくタイプの物語だと感じました。家族の距離感や、言えなかった言葉を抱えている人に向いている一冊です。
印象に残った部分・面白かった点
いちばん印象に残ったのは、「朝は必ず来る。でも幸せはいつ来るかわからない」という感覚が、物語の底にずっと流れているところです。深夜バスは夜明けへ向かって走ります。でも登場人物たちは、ただ朝が来れば救われるわけじゃない。そこが現実的で、だからこそ刺さりました。 利一は決して“かっこいい大人”として描かれません。優柔不断に見えたり、ずるさがにじんだりして、読者の感情をざわつかせます。そのざわつきが、怜司や彩菜に肩入れしたくなる気持ちにもつながっていて、家族ってきれいごとじゃ済まないんだなと感じました。 そして、別れた妻・美雪の言葉や視線も強烈でした。年齢や人生の折り返し地点を意識したときの“痛いほどの現実”が、淡々と突きつけられる。読んでいてきついのに、目を逸らせない場面が多かったです。
本をどう解釈したか
この作品が投げかけてくる問いは、「家族って、やり直せるのか?」ということだと思います。ただし、“元どおりに戻る”という意味ではなく、別々に生きることになっても、どこかで手を貸し合える関係になれるのか、という問いです。 利一も美雪も、子どもたちも、迷って間違えます。相手の気持ちを聞かずに「こうした方が幸せだ」と決めてしまったり、伝えるべきことを飲み込んだりする。でも、その不器用さが人間らしくて、読んでいて苦しいのに納得してしまう部分がありました。夜明けは“救い”じゃなくて、“続いていく時間”なんだと感じました。
読後に考えたこと・自分への影響
読み終えて強く残ったのは、「近い関係ほど、正しい距離を取るのが難しい」ということです。家族だから言わなくていい、分かるはず、という甘えが、すれ違いを深くしてしまう。逆に、分かり合えなくても、意地を張らず頼ることで、ほどけていくものもあるのだと感じました。 もうひとつは、大人になっても迷い続けるという事実です。子どもの頃は“大人は分かっている”と思っていたのに、実際はそうじゃない。大人も傷を抱えながら、暗い道を手探りで進んでいる。その姿が痛くて、でもどこか救いでもありました。
この本が合う人・おすすめの読書シーン
夜に読むのがいちばん合うと思います。部屋の灯りを少し落として、静かな時間に読むと、深夜バスの揺れや休憩所の薄暗さまで想像できて、物語の空気が染みてきます。気持ちが落ちているときは少ししんどく感じるかもしれませんが、逆に「過去を抱えたままでも進んでいい」と思いたい夜には、そっと寄り添ってくれる一冊だと思いました。
『ミッドナイト・バス』(伊吹有喜・著)レビューまとめ
深夜は長くて、心細い。でも朝は来る。そんな当たり前の事実が、こんなにも切なく温かい物語になるんだと感じました。すれ違いだらけの家族の話なのに、読み終えると不思議と「それでも前に進める」と思える余韻が残ります。
関連項目
読後の余韻を深めるための読書サービス
この本は、読み終えた瞬間に何かが完結するというより、あとから静かに効いてくるタイプの一冊だったように感じました。
ページを閉じたあとも、ふとした瞬間に言葉や場面を思い出して、「もう一度考えてみたい」と思わせる余韻が残ります。
もし、そうした感覚をもう少し大切にしたいなら、文字とは違うかたちで触れ直すのも一つの方法です。
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移動中や家事の合間など、日常の中で考え続ける時間をつくりたい人には、無理のない選択肢だと思いました。

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