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『雲を紡ぐ』(伊吹有喜・著)レビュー|不器用な家族の想いは届くのか?

小説・文学

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この本は、静かな装丁に惹かれて手に取りました。読み始めたときは、派手な出来事が起こるわけではないのに、なぜかページをめくる手が止まらなくなりました。それは登場人物たちの「言葉にできない気持ち」があまりにもリアルで、自分の記憶や後悔と重なったからだと思います。読み進めるうちに、胸の奥のやわらかい部分をそっと撫でられるような感覚になりました。

【書誌情報】

タイトル文春文庫 雲を紡ぐ
著者伊吹有喜【著】
出版社文藝春秋
発売日2022/09
ジャンル文芸(一般文芸)
ISBN9784167919320
価格¥800
出版社の内容紹介

壊れかけた家族は、もう一度、一つになれるのか?第8回高校生直木賞(2021)受賞作!羊毛を手仕事で染め、紡ぎ、織りあげた「時を越える布・ホームスパン」をめぐる親子三代の「心の糸」の物語。いじめが原因で学校に行けなくなった高校2年生・美緒の唯一の心のよりどころは、祖父母がくれた赤いホームスパンのショール。ところが、このショールをめぐって母と口論になり、美緒は岩手県盛岡市の祖父の元へ行ってしまう。美緒は、祖父とともに働くことで、職人たちの思いの尊さを知る。一方、美緒が不在となった東京では、父と母の間にも離婚話が持ち上がり……。「時代の流れに古びていくのではなく、熟成し、育っていくホームスパン。その様子が人の生き方や、家族が織りなす関係に重なり、『雲を紡ぐ』を書きました」と著者が語るように、読む人の心を優しく包んでくれる1冊。文庫版特典として、スピンオフ短編「風切羽の色」(「いわてダ・ヴィンチ」掲載)を巻末に収録。文庫解説・北上次郎※この電子書籍は2020年1月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。

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本の概要(事実の説明)

本作は、盛岡を舞台にした家族の再生物語です。人との関わりに疲れ、不登校になった高校生・美緒は、衝動的に父方の祖父のもとへ向かいます。祖父は伝統的な手織物「ホームスパン」の工房を営んでおり、美緒はそこで羊毛を洗い、紡ぎ、織る作業に触れていきます。 物語は、美緒の成長だけでなく、言葉足らずな父、娘を思いながらもうまく接することができない母など、家族それぞれの視点からも描かれます。ネタバレを避けて言えば、これは「壊れかけた家族が、時間をかけてもう一度糸をより合わせていく」物語だと感じました。人間関係に不器用さを抱える人に特に響く作品だと思います。

印象に残った部分・面白かった点

もっとも心に残ったのは、手仕事の描写と人の心情が重ねられている点です。羊毛を洗い、糸を紡ぎ、ゆっくりと布を織り上げていく過程が、そのまま家族の関係修復の歩みに重なっているように感じました。とくに、美緒が少しずつ自分の「好き」に気づいていく場面は、読んでいる私まで呼吸が深くなるような感覚がありました。 また、祖父のさりげない言葉や態度には大きな優しさがあり、押しつけではない愛情のかたちを見た気がします。声高に語られないからこそ、余計に胸に沁みました。

本をどう解釈したか

この物語が投げかけている問いは、「分かり合えないままでも、人はつながれるのか」ということではないかと思いました。家族であっても性格や考え方は違い、言葉が足りなかったり、気持ちが空回りしたりすることはあります。それでも、時間と手間をかければ、関係は少しずつやわらいでいくのかもしれない、と感じました。 作者は「完璧な和解」ではなく、「それでも一緒に生きていく覚悟」を描こうとしているように思えました。その不完全さが、かえって現実に近く、胸に響いたのだと思います。

読後に考えたこと・自分への影響

読後に強く残ったのは、「言えなかった言葉」を抱えたまま生きているのは自分だけではない、という気づきでした。相手を大切に思っているのにうまく伝えられないもどかしさは、きっと誰の心にもあるのだと思います。 また、「好きなことに真剣に向き合う時間」は、人生を立て直す力になるのだと感じました。何かを生み出す手の動きが、心を整えることもあるのだと、この物語は静かに教えてくれた気がします。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

静かな夜、自分の部屋であたたかい飲み物を手にしながら読みたくなる一冊です。心が少し疲れているとき、誰かに強い言葉で励まされるのではなく、そっと寄り添ってほしいと感じている夜に、この物語はやさしく染み込んでくると思います。

『雲を紡ぐ』(伊吹有喜・著)レビューまとめ

派手さはないけれど、じんわりと心をほどいてくれる物語でした。言葉にならない想いを抱えたまま生きる人たちの姿が、やさしい糸のように静かにつながっていく一冊です。

読後の余韻を深めるための読書サービス

この本は、読み終えた瞬間に何かが完結するというより、あとから静かに効いてくるタイプの一冊だったように感じました。

ページを閉じたあとも、ふとした瞬間に言葉や場面を思い出して、「もう一度考えてみたい」と思わせる余韻が残ります。

もし、そうした感覚をもう少し大切にしたいなら、文字とは違うかたちで触れ直すのも一つの方法です。

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移動中や家事の合間など、日常の中で考え続ける時間をつくりたい人には、無理のない選択肢だと思いました。

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