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『わたしの知る花』(町田そのこ・著)レビュー|人生のタイミングは戻せるの?

小説・文学

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ふらりと町に住み着いたような黒づくめの老人が、公園で画板を肩に、黙々と何かを描いている。周りの人たちは距離を取り、どこか面倒そうに「絵描きジジイ」と呼ぶけれど、高校生の安珠だけはなぜか目が離せませんでした。 私も読み始めてすぐ、安珠のこの感覚がわかる気がしました。怖いわけじゃない。気持ち悪いわけでもない。ただ、妙に引っかかる。そこにいるだけで、何かを抱えているのが伝わってくる人っていますよね。 安珠が彼と話すようになったきっかけは、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま出会ってしまったこと。人生の弱っている瞬間に差し出される沈黙や、短い一言って、予想以上に心に刺さります。 けれど、距離が少しだけ近づいた、そのタイミングで、老人――葛城平は突然亡くなってしまいます。知りたいと思ったときには、もう本人はいない。ここから物語は、静かに、でも確実に深い場所へ入っていきました。

【書誌情報】

タイトルわたしの知る花
著者町田そのこ【著】
出版社中央公論新社
発売日2024/07
ジャンル文芸(一般文芸)
ISBN9784120058066
価格¥1,870
出版社の内容紹介

「あんたは、俺から花をもらってくれるのか」犯罪者だと町で噂されていた老人が、孤独死した。部屋に残っていたのは、彼が手ずから咲かせた綺麗な《花》――。生前知り合っていた女子高生・安珠は、彼のことを調べるうちに、意外な過去を知ることになる。淡く、薄く、醜くも、尊い。様々な花から蘇る記憶――。これは、謎めいた老人が描く、愛おしい人生の物語。

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本の概要(事実の説明)

本作『わたしの知る花』は、連作短篇のように章ごとに視点が移りながら、葛城平という一人の男の人生が少しずつ立ち上がっていく小説です。 テーマはとてもシンプルで、だからこそ痛いほど刺さります。 「人生のタイミングを逃し続けた男」 そして、 「人を想うがゆえのすれ違い」 安珠が残されたノートや周囲の話を手がかりに、平という人物の過去を辿っていく中で、祖母・悦子との思いがけない繋がりも浮かび上がります。 単に老人の人生を回想する話ではなく、安珠自身や、彼女の幼馴染・奏斗の揺れるアイデンティティ、現代の息苦しさ、コロナがもたらした喪失なども絡み合い、過去と現在が同時に進む構成になっています。 向いている読者は、人生の「もしも」を考えたことがある人。過去の選択を悔やんだことがある人。そして、自分の大切な人に、言葉にできない気持ちを抱えたことがある人です。

印象に残った部分・面白かった点

いちばん胸に残ったのは、葛城平が「みすぼらしく嫌われている老人」として登場するのに、読み進めるほどその姿がまるで違って見えてくるところでした。 ただ優しいだけの人でもない。器用に人に好かれるタイプでもない。むしろ、ぶっきらぼうで誤解されやすく、タイミングを外してしまう人。 なのに、彼の目だけは「びかびかに生きている」と表現される。その視線の熱に、私は何度も立ち止まりました。 章を追うごとに、平の人生に現れる「花」の意味が変わっていきます。花は祝福の象徴のはずなのに、この物語では、渡せなかった花、言えなかった言葉、遅すぎた謝罪のように感じられることもある。 そして、平を知る人たちが皆、少なからず彼に影響されているのが印象的でした。平は世界の中心に立つ人じゃない。でも、誰かの人生に小さな波紋を残す人だった。 その波紋が、時間をかけて、別の誰かへ繋がっていく――その描き方がとても美しかったです。

本をどう解釈したか

『わたしの知る花』が投げかけてくる問いは、派手ではありません。むしろ、日常に潜む問いです。 「間に合わなかったことを、人はどう抱えて生きるのか」 「優しさは、いつも正しく届くのか」 「後悔している人間に、救いはあるのか」 葛城平は、何かを間違えた人というより、「正しいのに届かなかった人」だったように思えました。 優しいがゆえに、言えなかった。 優しいがゆえに、踏み込めなかった。 優しいがゆえに、自分を後回しにした。 そんな人生の積み重ねが、気づけば取り返しのつかない距離を生み、遅れてやってくる。 だからこそ私は、この物語を「純愛」と呼ぶだけでは足りない気がしました。 愛というより、祈りに近い。相手の人生を壊さないために、自分が黙って傷を抱えるような、そういう形の愛です。

読後に考えたこと・自分への影響

読後に残ったのは、「最後まで生きてくしかない」という言葉でした。 この一文って、励ましにもなるし、突き放しにもなります。でも私は、たぶんこの物語の中では前者なんだと思いました。 人生には、どうしたって取り返せない瞬間がある。 あの時、こう言えば良かった。 あの時、会いに行けば良かった。 あの時、逃げずに向き合えば良かった。 それでも、生きている側は進むしかない。 そして、進むからこそ、遅れて届くものもある。 平の人生はあまりにも不器用で、正直「もっと早く!もっと素直に!」と言いたくなる場面が何度もありました。 でも、そうやってもがく人の姿にこそ、私は人間らしさを感じました。 この本は、誰かの人生を読みながら、結局自分の人生に照らし合わせてしまうタイプの物語です。 私は読み終えたあと、自分が大切に思う人の顔が何人も浮かびました。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

この本は、気持ちがざわざわしているときに読むと、さらに刺さると思います。 夜、家の音が静かになって、スマホも置いて、ひとりになれた時間。 窓の外が暗くて、部屋の灯りだけがやわらかく残っているようなときに読むと、物語の余韻がそのまま心の中に降りてきます。 静かな休日の午後、あえて予定を入れずに、少しだけ人生のことを考える余裕がある日にも合います。 読み終わったあと、しばらく何もできなくなるかもしれない。 でもその「何もできなさ」も含めて、読書の時間をちゃんと味わえる作品だと思います。

『わたしの知る花』(町田そのこ・著)レビューまとめ

人は、正しいことをしていても、報われないときがあります。

優しい気持ちが、裏目に出ることもある。

それでも誰かを想ってしまうのが、人間なんだと思いました。

『わたしの知る花』は、後悔とすれ違いの物語でありながら、不思議と暗さだけでは終わりません。

最後に残るのは、眩しくないけれど確かな光。

人生の終盤にようやく手に入るような、静かな救いでした。

読後の余韻を深めるための読書サービス

この本は、読み終えた瞬間に何かが完結するというより、あとから静かに効いてくるタイプの一冊だったように感じました。

ページを閉じたあとも、ふとした瞬間に言葉や場面を思い出して、「もう一度考えてみたい」と思わせる余韻が残ります。

もし、そうした感覚をもう少し大切にしたいなら、文字とは違うかたちで触れ直すのも一つの方法です。

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移動中や家事の合間など、日常の中で考え続ける時間をつくりたい人には、無理のない選択肢だと思いました。

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