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『死んだ山田と教室』(金子玲介・著)レビュー|忘れられる痛みは救いか?

小説・文学

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タイトルの勢いに引っ張られて、私は最初「ちょっと変な設定で笑える青春ものかな」と思って読み始めました。交通事故で死んだ山田が、なぜか教室のスピーカーに憑依して、声だけで戻ってくる。そんなぶっ飛んだ導入なのに、教室の空気が妙にリアルで、すぐに“あの頃のノリ”が立ち上がってきます。 ただ、そこで心が動くのは、笑いだけではありませんでした。男子校の「おバカで下ネタでゲラゲラ」って、楽しい側面がある一方で、苦手な人には逃げ場がない圧にもなる。その空気感から早々に距離を取る子の心情が、私は妙に刺さりました。 読み進めるほどに、これは“死んだ友だちが戻ってくる話”というより、「変わっていく人」と「変われない存在」の話なのだと感じて、ページをめくる手が少しずつ重くなっていきました。

【書誌情報】

タイトル死んだ山田と教室
著者金子玲介【著】
出版社講談社
発売日2024/05
ジャンル文芸(一般文芸)
ISBN9784065348314
価格¥1,881
出版社の内容紹介

自分はなぜ生きているのか、自分はなぜ死なないのか、逡巡の中にいるすべての人へ。私がずっとデビューを待ち望んでいた新人の、ユーモアと青臭さと残酷さと優しさが詰め込まれた快作です。ーー金原ひとみ夏休みが終わる直前、山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれたらしい。山田は勉強が出来て、面白くて、誰にでも優しい、二年E組の人気者だった。二学期初日の教室。悲しみに沈むクラスを元気づけようと担任の花浦が席替えを提案したタイミングで教室のスピーカーから山田の声が聞こえてきたーー。教室は騒然となった。山田の魂はどうやらスピーカーに憑依してしまったらしい。〈俺、二年E組が大好きなんで〉。声だけになった山田と、二Eの仲間たちの不思議な日々がはじまったーー。歴代メフィスト賞受賞者推薦コメント死んでも終わらない山田の青春に、ぼくらは笑い、驚き、泣く。(第21回受賞)佐藤友哉くだらないのに楽しい。けれど、ほろ苦くて切ない。青春とは、山田である!!(第49回受賞)風森章羽最強を最強と言い切れる山田こそが最強で最高。(第53回受賞)柾木政宗こんな角度の切り口があったのかと驚かされ、こんな結末まであるのかと震えた!(第59回受賞)砥上裕將自分には経験がないはずの男子校での日々が、妙な生々しさで蘇ってきました。(第61回受賞)真下みことダサくて、眩しくて、切なくて。青春の全てと感動のラストに、大満足の一作。(第62回受賞)五十嵐律人校舎に忘れてきた繊細な感情を拾い上げてくれるような物語でした。(第63回受賞)潮谷 験

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本の概要(事実の説明)

ジャンルとしては、青春小説の顔をした、かなり強めの変化球です。設定はホラーめいているのに、読感は会話劇のテンポがよく、男子校のくだらない掛け合いが続きます。 物語は、飲酒運転の車に撥ねられて死んだ高校生・山田が、2年E組の教室スピーカーとして“声だけ”で存在するところから始まります。最初は戸惑う同級生たちも、やがて山田のいる学校生活をそれなりに謳歌し、文化祭や日常のイベントを一緒に過ごしていく。 けれど山田は年を取れません。消えることも、移動することもできない。ただ教室にいて、声だけで繋がり続ける。その歪さが、進級や卒業という現実の節目とぶつかったとき、物語は一気に重さを増していきます。 向いている読者は、青春の空気を懐かしみたい人だけではなく、「卒業したら関係が薄れていく普通」を、どこかで痛いほど知っている人だと思います。

印象に残った部分・面白かった点

印象に残るのは、まず会話のリアリティです。小学生男子みたいな合言葉や、くだらない罵り合いが続くのに、違和感が少ない。だからこそ、序盤のノリが苦手な人がいるのもわかるし、その場から早めに離脱したくなる子の感覚も、すごく現実的に感じました。 そして、山田という存在が“教室に固定されている”ことが、だんだん効いてくる。みんなはそれぞれ成長していくのに、山田だけは同じ温度のまま残り続ける。そのズレが、教室の「最初は面白い」から「だんだん扱いに困る」へ移っていく空気を生むのが、かなり残酷でした。 私は特に、深夜の誰もいない教室で、山田がひとりラジオ番組みたいに喋っている場面が忘れられません。あのシーンは、賑やかな教室の裏側にある“孤独”を、一瞬で露出させる感じがして、胸が冷たくなりました。

本をどう解釈したか

この作品が投げかける問いは、意外とシンプルで、だからこそ重いです。 人は、どうやって死者と付き合うのか。戻ってきてほしいと思うのか。それとも“終わったもの”として切り捨てるのか。 さらに言えば、変化することは救いなのか、裏切りなのか。卒業して疎遠になるのはよくあることだし、誰かをずっと抱え続けるのは現実的に難しい。だからクラスメイト側の変化も、私は「冷たい」とは言い切れませんでした。 ただ、山田の側から見たらそれは「忘れられる」ということでもある。ここが痛い。生前どんなに仲が良くても、ずっと必死に友情を守り続けられる人は多くないし、守ろうとする人がいたとしても、その姿は“優しさ”と“執着”の境界で揺れてしまう。 男子版の同調圧力、教師と生徒の距離感、内輪ノリの線引き。そういう細部が全部、山田の不動の存在に照らされて、じわじわ浮かび上がってくる作品だと感じました。

読後に考えたこと・自分への影響

読み終えて残ったのは、「死ねないってこんなにも辛いんだ」という感覚でした。死んだのに、終われない。消えることもできない。 そしてもう一つは、友情の“熱量の差”についてです。誰かにとっては一生ものでも、誰かにとっては人生の一時期でしかない。そのズレが悪いわけではないのに、ズレた瞬間、傷つく人が出てしまう。 私は、作中の「一人だけ必死に守ろうとする」人物の姿が、優しさゆえに痛く見えました。救いたい、置いていけない、という気持ちは美しいのに、その美しさが本人を追い詰めていく感じがして。 だからこの本は、読後にスカッとはしません。でも、軽いノリで始まって、最後にちゃんと“残るもの”を渡してくる。その意味で、強い作品だと思いました。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

これは夜に読むのが合うと思います。 昼間に読むと、序盤の教室のテンションが明るく見えすぎるのに、夜だと、その明るさの裏にある寂しさが最初から少し透けて見える。 部屋が静かになって、ふと自分の学生時代の教室を思い出すような時間に読むと、笑える場面でもどこか胸がきゅっとして、作品の温度が伝わりやすい気がします。

『死んだ山田と教室』(金子玲介・著)レビューまとめ

ぶっ飛んだ設定で笑わせながら、進級と卒業の現実でじわじわ心を削ってくる青春譚でした。

変わっていく側の普通と、変われない側の痛み。その間にある友情の美しさと残酷さが、読後も静かに残ります。

読後の余韻を深めるための読書サービス

この本は、読み終えた瞬間に何かが完結するというより、あとから静かに効いてくるタイプの一冊だったように感じました。

ページを閉じたあとも、ふとした瞬間に言葉や場面を思い出して、「もう一度考えてみたい」と思わせる余韻が残ります。

もし、そうした感覚をもう少し大切にしたいなら、文字とは違うかたちで触れ直すのも一つの方法です。

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移動中や家事の合間など、日常の中で考え続ける時間をつくりたい人には、無理のない選択肢だと思いました。

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