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『禁忌の子』(山口未桜・著)レビュー|命は誰のためにあるのか?

小説・文学

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救急の現場に運ばれてきた溺死体が、自分と瓜二つだった。そんな導入だけで、私は一気に呼吸が浅くなりました。最初は「遺伝子の話かな」と身構えたのに、読み進めるほどに、この作品はその軽い予想を平然と裏切ってきます。 ページをめくる手が止まらなかったのは、謎解きの勢いだけではありませんでした。命の出発点にある“誰かの願い”が、別の誰かの人生をどれだけ重く縛ってしまうのか。そこに触れた瞬間から、面白いのに苦しい、という感情がずっと同居していました。

【書誌情報】

タイトル禁忌の子
著者山口未桜【著】
出版社東京創元社
発売日2024/10
ジャンルミステリー
ISBN9784488025694
価格¥1,799
出版社の内容紹介

【第34回鮎川哲也賞、満場一致の受賞作】【デビュー作にして2025年本屋大賞ノミネート!】救急医・武田の元に搬送されてきた、一体の溺死体。その身元不明の遺体「キュウキュウ十二」は、なんと武田と瓜二つであった。彼はなぜ死んだのか、そして自身との関係は何なのか、武田は旧友で医師の城崎と共に調査を始める。しかし鍵を握る人物に会おうとした矢先、相手が密室内で死体となって発見されてしまう。自らのルーツを辿った先にある、思いもよらぬ真相とは――。過去と現在が交錯する、医療×本格ミステリ! 第34回鮎川哲也賞受賞作。/第34回鮎川哲也賞選考経過、選評=青崎有吾 東川篤哉 麻耶雄嵩

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本の概要(事実の説明)

ジャンルとしては、医療ミステリに密室殺人が重なる構成で、エンタメとしての満足感が高い作品だと感じました。救急医の武田が中心にいて、推理役として城崎という医師が関わっていく流れが、物語の背骨を強くしています。 テーマは「自分のルーツ」と「生殖医療の倫理」です。謎を追うほど、医学の言葉がリアルに効いてきて、同時に“生まれてくる子”の立場が置き去りにされてきた歴史のようなものが、じわじわ迫ってきます。 あらすじは、武田が自分に酷似した身元不明の溺死体に遭遇し、その正体を探るうちに、ある施設と過去に辿り着く、という流れです。途中で別の事件も重なり、推理の熱量が増していきますが、最後に残るのは「解けた」よりも「抱えてしまった」という感覚でした。 向いている読者は、ミステリの加速感が好きな人はもちろん、医療や生命倫理を“説明”ではなく“物語”として受け取りたい人だと思います。読後に考えが止まらないタイプの作品が好きな人にも合います。

印象に残った部分・面白かった点

印象に残ったのは、主人公が「現場保存なんて知ったことか」とでも言うように、まず救命を優先する場面です。事件の物語なのに、人が目の前で死にかけているなら助ける、という姿勢が最初に置かれていることで、この話が単なる謎解きに収まらないと分かりました。 そして、武田の人情味と、城崎の感情を持てないようでいて“感情に興味を抱く”知性が、すごくいい対比になっています。武田が抱える揺れを、城崎が冷静に切り分けていく。その過程で、読者の私は安心しながらも、切り分けきれないものが残る感じがして、そこが怖くもありました。 さらに、明かされていく過去が「悲劇」と「奇蹟」と「愛情」を同時に含んでいるところがきついです。どれか一つに割り切れないから、怒りも同情も湧いてしまう。とくに、子どもが背負わされたものの大きさが見えてくるほど、ページをめくる指先が重くなりました。

本をどう解釈したか

この作品が投げかける問いは、はっきりしているようで、簡単には答えが出ません。 「子どもが欲しい」という願いは、善意や希望と繋がっています。けれど、技術が進めば進むほど、その願いが“子の権利”と衝突してしまう瞬間がある。作中の出来事は、その衝突を、ミステリの構造に乗せて突きつけてきたように感じました。 私は読みながら、「正しいこと」と「したいこと」が一致しない人間の欲望のほうがリアルだと思ってしまいました。理屈だけなら結論は出せるのに、当事者になった途端、判断は揺らぐ。その揺れまで含めて、命の話を“きれいごと”で終わらせない作品だと受け取りました。

読後に考えたこと・自分への影響

読後に残ったのは、「生殖医療は生まれてくる子のために」という言葉の重みでした。頭では当然だと思うのに、物語の中で具体的な境遇として出されると、こちらの心が追いつかなくなります。 また、「優しい人」と「都合のいい人」は紙一重、という感想が刺さりました。優しさを持ちながら、舐められないための線引きも必要で、言葉を渡すタイミングにも洞察が要る。これはミステリの外側でも、現実の人間関係に戻ってくる気づきでした。 面白かった、で終われないのに、最後まで読ませる力がある。私がこの本を“強い作品”だと思ったのは、読後に気持ちが動いた理由を、自分の中で整理せざるを得なかったからです。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

この本は、軽い気持ちで読むと不意打ちを食らうタイプだと思います。だから私は、夜にじっくり、静かな部屋で読むのが合うと感じました。 ページを閉じたあと、すぐ別のことをするより、少しだけ余韻に浸れる時間がほしい。倫理の話は、読んだ直後に結論を出さなくてもいいけれど、考えが浮かぶ瞬間は逃したくないからです。 一気読みの快感と、胸の奥に残る重さが同時に来るので、読むなら「今日は少し深いところまで潜ってもいい」という日に手に取るのが良さそうです。

『禁忌の子』(山口未桜・著)レビューまとめ

謎解きのスピード感で走らせながら、最後に“タイトルの意味”で心を止めてくる本でした。

面白さと苦しさが同居して、読み終えたあとも「命は誰のために」という問いが残ります。

めでたしめでたしにならないからこそ、忘れられない読後感がありました。

読後の余韻を深めるための読書サービス

この本は、読み終えた瞬間に何かが完結するというより、あとから静かに効いてくるタイプの一冊だったように感じました。

ページを閉じたあとも、ふとした瞬間に言葉や場面を思い出して、「もう一度考えてみたい」と思わせる余韻が残ります。

もし、そうした感覚をもう少し大切にしたいなら、文字とは違うかたちで触れ直すのも一つの方法です。

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移動中や家事の合間など、日常の中で考え続ける時間をつくりたい人には、無理のない選択肢だと思いました。

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