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『図書室のピーナッツ』(竹内真・著)レビュー|なぜ本は人と人を結び直すのか?

小説・文学

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本好きとして、「図書室を舞台にした物語」というだけで心がそわそわしてしまうのですが、本作『図書室のピーナッツ』は期待を軽く飛び越え、読後にふっと肩の力が抜けるような、温かな余韻を残してくれました。主人公・詩織は、資格のない“なんちゃって司書”として高校図書室に勤務する女性。日々持ち込まれる謎めいた相談や、生徒たちの悩みに耳を傾けながら、自分自身の人生までそっと組み立て直していく姿が丁寧に描かれています。 読んでいる間ずっと、図書室独特の静けさと、そこに満ちる人の気配を肌で感じるようでした。ページをめくるたびに、学生時代に通った図書室の匂いまで蘇ってくるような感覚がありました。 本に救われ、本が人をつないでいく。この物語が伝えるその確かな事実が、じんわり胸に沁みていきました。

【書誌情報】

タイトル双葉文庫 図書室のピーナッツ
著者竹内真【著】
出版社双葉社
発売日2020/03
ジャンル文芸(一般文芸)
ISBN9784575523133
価格¥759
出版社の内容紹介

資格を持たない「なんちゃって司書」として直原高校の図書室で働く詩織。サンタクロースは実在するのか? 村上春樹とスヌーピーの関係は? などなど、今日も難問珍問が生徒たちから持ちこまれる。はたして、怠け者のキリギリスは2年目の春を迎えることができるのか!? 恋の気配と共に綴られる、ハートフルブックストーリー第2弾。

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本の概要(事実の説明)

『図書室のピーナッツ』は、学校図書館を舞台にした日常ミステリー×ヒューマンドラマです。著者・竹内真さんの筆致は、図書館の世界に精通した人だからこそのリアルな描写が光り、特に「学校司書の雇用の不安定さ」という社会的な問題にもさらりと触れています。 主人公・詩織は、離婚後に始めた学校司書としての仕事を通じて、さまざまな出来事に出会います。生徒から持ち込まれる本にまつわる疑問、返却本から漂う思念のような“気配”を感じ取る不思議な能力、そして彼女の人生に新たな影響を与える大人たち。物語は連作短編のように構成され、毎話、小さな謎とともに心の成長が積み重なっていきます。 本作はミステリーの体裁をとりつつも、あくまで中心にあるのは“人”。読書が好きな人はもちろん、図書館という空間に弱い読者にはたまらない作品だと感じました。

印象に残った部分・面白かった点

まず強く印象に残ったのは、図書室に集う高校生たちが、詩織にだけそっと本音を吐き出す場面です。保健室にも似た安心感が図書室という場所にはあるのだと改めて感じました。詩織が仕掛ける読書会や、本の感想を共有する小さなイベントは、読書が“孤独な行為”ではなく“誰かとつながる行為”であると教えてくれます。 また、詩織が“本に残る思念”を感じ取るという設定が物語に柔らかなファンタジー要素を加えていました。読者によっては不要に感じる場面もあるかもしれませんが、私はむしろ「本を愛する者だけが感じ取れる温度」のように思え、魅力のひとつでした。 特に胸が熱くなったのは、詩織が自分の人生を見つめ直すラストの決断シーンです。本や学生たちとの出会いが、彼女自身を再び立ち上がらせていく。人の優しさと、本という媒介の力が静かに噛みあう瞬間でした。

本をどう解釈したか

この作品で語られるテーマのひとつは、「本には人の思いが宿る」ということだと思いました。残留思念という少しファンタジックな設定は、その象徴のように見えました。私たち読者は、知らない誰かが書いた文字に涙したり、励まされたり、人生の選択を揺さぶられたりすることがあります。物語が持つその力を、作者はとても丁寧に描こうとしているのではないでしょうか。 また、司書という仕事が“本棚を整える人”に留まらず、“人と本を媒介する架け橋”だという視点も強く印象に残りました。本を勧めるという行為は、人の傷みや背景を想像できなければできないこと。詩織の仕事ぶりは、その本質をよく表していたように感じます。 図書室という静かな空間で起きる出来事が、実は“誰かの人生を少しだけ変える大きな出来事”へと繋がっていく。その変化の連続が、この作品の美しさでした。

読後に考えたこと・自分への影響

読後、私の中に残ったのは「本は人をつなぐ」というシンプルな実感でした。登場人物たちは誰も派手ではなく、それぞれ悩みや弱さを抱えているのですが、本を通すことで少しずつ前を向いていきます。詩織自身もまた、本を介して“他者と自分”の間に橋をかけ、そこに救いを見つけていきました。 また、学校司書という職業の影の苦労を知れたことも大きな学びでした。不安定な雇用、資格制度、環境の整わなさ。それでも誠実に仕事に向き合う司書たちの姿は、本を愛する人間として胸が熱くなるものでした。 そして何より―― 本は、読まれるほど生き返る。 その当たり前の事実を、改めて思い出させてくれた作品でした。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

私はこの本を、静かな休日の午前中に読むのがいちばん合うと感じました。温かい飲みものをそばに置き、窓から差し込む光の下で読み進めると、作品の柔らかい空気とぴたりと重なります。 あるいは、図書館へ出かける前に読むのも素敵です。読み終わる頃には、きっといつもより少しゆっくりと棚を眺めたくなるはずです。手に取る本の選び方さえ、変わってしまうかもしれません。

『図書室のピーナッツ』(竹内真・著)レビューまとめ

図書室で働く詩織が、生徒たちとの交流と本の力を通して人生を再び歩き始める物語。本に宿る思い、人の優しさ、そして読書が運んでくるささやかな希望を丁寧に描いた一冊でした。

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