
「女と男は、なぜこんなにもすれ違うのか」。 長年の疑問を改めて考えたくて、本書を手に取りました。読む前は、男女は“性別以前にひとりの人間として分かり合えないもの”だと思っていました。しかし本書は、その直感を明確な根拠とデータで裏付けていく内容で、想像以上の衝撃がありました。 橘玲さんの著作らしく、膨大な統計と海外研究が次々に提示され、性愛・恋愛・浮気・結婚・競争・嫉妬など、普段は語られにくい領域が容赦なく分析されていきます。読みながら何度も「そんな事実があるの?」と驚き、同時に「なるほど…」と腑に落ちる感覚がありました。 センセーショナルな表現もありますが、著者の狙いは“男女どちらかを責めること”ではなく、“前提の違いを理解したうえでどう共存するか”。分かりあえないからこそ、歩み寄りが必要だと感じながらページをめくりました。
【書誌情報】
| タイトル | 文春新書 女と男 なぜわかりあえないのか |
|---|---|
| 著者 | 橘玲【著】 |
| 出版社 | 文藝春秋 |
| 発売日 | 2020/06 |
| ジャンル | 教養文庫・新書・選書 |
| ISBN | 9784166612659 |
| 価格 | ¥880 |
ベストセラー『言ってはいけいない』の著者が、男女のタブーに斬りこむ!「週刊文春」の人気連載「臆病者のための楽しい人生100年計画」を新書化。「女と男」は人類の最大の関心事ともいえる。この永遠のテーマが最新のサイエンスによって解明されつつある。野心的なタブーの挑戦のなかから、意外かつ誰でも楽しんで読める最前線の研究を紹介。果たして女と男の戦略のちがいとは……。【本書の内容より】●「美女はいじわる」は本当だった!?●男は52秒にいちど性的なことを考える●女は純愛、男は乱婚?●女の8割は「感情的な浮気」に傷つく●男のテストステロン・レベルは女の100倍●女は合理的にリスクをとる●父親の10人に1人は知らずに他人の子を育てている●女は身体が感じても脳は感じない●男は「競争する性」、女は「選択する性」
本の概要(事実の説明)
本書は、進化心理学・生物学・社会科学の研究をベースに「男女はなぜ理解し合えないのか」を分析する一冊です。橘玲さんはこれまでも経済・幸福・恋愛をテーマに多くのベストセラーを出してきましたが、本書は特に「性愛と性差」に踏み込んだ内容になっています。 提示される事実は、驚くほどストレートです。 たとえば、 • 男は20〜21歳の女性を好む傾向が統計的に最も強い • 女は同年代を好む • 女性のオーガズムは相手男性の“身体の対称性”と相関 • 男性は秒単位で性的思考が生じる • 女性は「間接的攻撃(噂・排除)」を進化戦略として使う など、日常の価値観では考えにくい、しかしデータが示す現象が並びます。 男女対立を煽る本ではなく、「事実は不愉快でも、それは真実と別問題」という著者の姿勢が貫かれています。 恋愛・夫婦関係・人間関係に悩む読者だけでなく、雑談のタネを求める人にも読みやすい構成だと感じました。
印象に残った部分・面白かった点
特に強く印象に残ったのは、「男女は本能レベルで“戦略”が違う」という一点でした。 本能と聞くと大げさに感じますが、本書で紹介される研究を読むと、男女の行動が驚くほど合理的な“進化戦略”の結果であることが見えてきます。 材料にもあった「男は52秒に一度性的なことを考える」というデータは、思わず笑ってしまいながらも、本能の差を端的に示す象徴でした。 また、女性の“噂話の巧妙さ”を「間接的攻撃」と捉える視点は、日常のコミュニケーションを考えるうえでも新鮮でした。 一見ただの雑談でも、実は生存競争の名残という説明に妙な説得力があります。 「不愉快だから誤りではない」 著者のこの言葉は、読み進めるうちに重みを増しました。 気持ちで否定したくなる事実ほど、向き合う価値があるのだと感じました。
本をどう解釈したか
私が本書を読みながら感じた核心は、「男女は分かり合えないのが前提である」という、ある意味で救いにも近い視点でした。 多くの男女関係の悩みは、“理解されないことへの怒り”から始まります。しかし本書は、「そもそも理解し合うようには進化していない」ことを示してくれます。 この前提を受け入れると、無理に相手を変えようとする苦しさから少し解放されるように思えました。 また、性愛・浮気・嫉妬といったテーマを科学的に扱うことで、善悪や道徳では語りきれない人間の側面が浮かび上がります。 「仕方ない」と「許せない」の狭間で揺れる感情をどう扱うか。 その葛藤こそが現代における“人間関係のリアル”なのだと感じました。
読後に考えたこと・自分への影響
読み終えて強く感じたのは、「理解し合えないことを前提に、どう歩み寄るかが人間関係の鍵になる」ということでした。 男女の違いを“個人の問題”として捉えると対立が生まれますが、進化の歴史に根ざした違いだと理解すると、少しだけ心が軽くなります。 相手の価値観や行動が「間違っている」のではなく、それぞれが合理性を持っているのだと思えるからです。 恋愛や夫婦の悩みを抱える人ほど、この「前提を疑う視点」に救われるのではないかと感じました。 また、異性のパートナーだけでなく、職場・友人関係など、日常のさまざまな場面で“他者との違い”をどう扱うかを考えるヒントにもなりました。
この本が合う人・おすすめの読書シーン
本書は、腰を据えてじっくり考えたいテーマが多いため、静かに自分のペースで読める環境が向いていると感じました。 私は午前中の落ち着いたカフェで読む時間がとても合っていて、研究データの細かい部分までスムーズに頭に入ってきました。 また、家族やパートナーとの関係を振り返りたいときにも向いていると思います。 感情ではなく理論的な視点で自分を見つめ直すことができ、読み終えた頃には落ち着いた気持ちで他者との距離を考えられるようになりました。
『女と男 なぜわかりあえないのか』(橘玲・著)レビューまとめ
男女はなぜ分かり合えないのか――その問いに、科学的な視点から正面から応える一冊でした。
不都合な真実に驚きつつも、違いを前提に相手を尊重する視点が、自分の人間関係にも役立つように思えました。
読むほどに、自分と他者を少し優しく見つめられるようになる本でした。


コメント