
『法廷占拠 爆弾2』を読み始めた瞬間、前作『爆弾』で感じたあの胃の奥が冷たくなるような緊張感が一気に戻ってきました。舞台が取調室から「東京地裁104号法廷」へ移るだけで、これほど空気が変わるものなのかと驚きました。裁判という、一般的には秩序の象徴とされる場所が、銃声ひとつで簡単に“修羅場”へ変わってしまう。その落差に心がざわつき、ページをめくる手が止まりませんでした。 そして、スズキタゴサクという“怪物”の存在感は、出番が少ないはずなのにどうして薄まらないのか。法廷を占拠する犯人よりも、ただベンチに座っているだけのスズキのほうが空気を支配しているように感じました。どこまで計算なのか、どこから本心なのか、まったく掴ませてくれないところに強烈な不気味さがあります。 「前作を超えられるのか?」という不安はすぐに消え、むしろ「ここからどこへ向かうのか?」という期待に変わっていきました。呉勝浩さんの筆力が、舞台を変え、状況を変え、キャラクターを変えても揺るがないことに、読み手としてただ圧倒されました。
【書誌情報】
| タイトル | 法廷占拠 爆弾2 |
|---|---|
| 著者 | 呉勝浩【著】 |
| 出版社 | 講談社 |
| 発売日 | 2024/07 |
| ジャンル | ミステリー |
| ISBN | 9784065363041 |
| 価格 | 2,090 |
【ご購入者様限定・映画「爆弾」公開記念画像データをプレゼント!(配布期間2025/10/31~2026/1/31)】史上最悪の爆弾魔が囚われた。そのとき新たな悪が生まれた。東京地方裁判所、104号法廷。史上最悪の爆弾魔スズキタゴサクの裁判中、突如銃を持ったテロリストが乱入し、法廷を瞬く間に占拠した。「ただちに死刑囚の死刑を執行せよ。ひとりの処刑につき、ひとりの人質を解放します」前代未聞の籠城事件が発生した。スズキタゴサクも巻き込んだ、警察とテロリストの戦いが再び始まる!
本の概要(事実の説明)
本作は、呉勝浩さんによるノンストップ・サスペンス『爆弾』の続編です。前作の爆弾魔・スズキタゴサクの裁判が行われている最中、傍聴席から銃を持った青年・柴咲が立ち上がり、法廷を占拠。100名以上の人質を取り、生配信を通じて「死刑囚の死刑執行」を要求します。 物語は、警察側・法廷内の人質側・占拠犯側、そしてスズキタゴサク本人と、複数の視点が切り替わりながら進行していきます。前作が“取調室の心理戦”だったのに対し、今作は“極限の密室での三つ巴構造”が魅力となっています。 なお、前作を読んでいなくても楽しめますが、スズキタゴサクという異常に魅力的なキャラクターをより深く理解したい人には、前作から読み始めることをおすすめしたいです。 サスペンス、心理戦、緊迫した群像劇が好きな読者に向く作品だと感じました。
印象に残った部分・面白かった点
私が最も強く心を掴まれたのは、「スズキタゴサクが再び物語の中心へ戻ってくる瞬間」でした。法廷占拠の渦中、犯人と対話するスズキの言葉は相変わらず不気味で、人の心を抉るような冷徹さがあります。彼がただの殺人衝動を持つ暴力的な犯人ではなく、確かな知性と観察力を持った“破壊的な思想家”であることがはっきりと伝わってきました。 また、柴咲という青年が抱える感情の揺れも胸に残りました。彼の行動は犯罪であり許されるものではないのに、その背後にある喪失や怒りを想像すると、完全に切り捨てることもできない。読者の心に揺さぶりをかけてくる描き方が巧みでした。 そして、スズキと警察・類家との緊迫した心理戦。脅しでもなく、怒りでもなく、ほんの一言で相手の心をひっくり返すスズキの会話劇には、ページを閉じる隙がありません。
本をどう解釈したか
この作品は、単なる「法廷ジャックもの」でも「警察VSテロリストもの」でもなく、“正義とは何か”“悪はどこから生まれるのか”という根源的なテーマを突きつけてくる物語だと感じました。 スズキタゴサクは悪の象徴のように描かれながら、一方で社会の歪み・個人の孤独・制度の残酷さを言語化する役割も担っています。彼の言葉には、読んでいて耳を塞ぎたくなるような真実がまぎれているため、読者は否応なく“自分の中の善悪”と向き合わざるを得なくなります。 柴咲もまた、弱さから生まれた復讐心に突き動かされていて、スズキとは異質ながらも「社会が生んだ影」の存在のように思えました。 この物語は、犯人を断罪するだけでは終わらない。“人はなぜ境界線を越えてしまうのか”という問いを、繰り返し私たちに投げかけているように感じました。
読後に考えたこと・自分への影響
本作を読み終えて私が感じたのは、“人はいつでも、誰かのために動ける存在である”ということでした。登場人物たちの中には、自分に利益がないどころか危険すらある場面でも、誰かを助けるために行動してしまう人がいます。 その姿が最後に描かれたことで、極限の犯罪劇でありながら、どこか人間らしい光も残してくれました。スズキのような怪物が存在する世界でも、それに抗うようにして善意や矜持が芽生える。その対比が胸に強く残りました。 同時に、正義とは一枚岩ではなく、人によって形が違うものだと思い知らされました。怒りも、悲しみも、正しさも、複数の層が絡み合っている。その複雑さごと抱きしめるように読ませる作品だと感じました。
この本が合う人・おすすめの読書シーン
私はこの作品を、静かな夜に読み進めるのが最も合っていると感じました。外の音が少なくなると、法廷の張り詰めた空気がより鮮明に響いてきます。 また、通勤時間の読書にも向いていると感じました。短い章ごとに区切りがよく、心理戦が中心なので読みやすく、日常とフィクションの緊迫感の差が逆に心地よい切り替えになります。 ページをめくるたびに心拍が上がる作品なので、集中できる環境で読みたい一冊です。
『法廷占拠 爆弾2』(呉勝浩・著)レビューまとめ
『法廷占拠 爆弾2』は、前作以上に「人間の奥深さ」に迫るサスペンスでした。怪物のようなスズキタゴサクの存在感は揺るがず、善悪が反転して見える瞬間が何度も訪れます。それでも最後に残ったのは、人間が誰かのために動いてしまう“弱さと強さ”でした。次作で類家とスズキがどんな決着を迎えるのか、待ちきれません。


コメント