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『木曜日にはココアを』(青山美智子・著)レビュー|心がほっと温まる“つながり”の物語

小説・文学

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ページをめくるたび、心の中にあたたかいココアの香りが広がる――。 青山美智子さんのデビュー作『木曜日にはココアを』は、穏やかな文章と優しい登場人物たちが織りなす連作短編集です。舞台は喫茶店「マーブルカフェ」。その店を中心に、人々の小さな出来事がゆるやかにつながっていきます。 私はこの作品を読みながら、誰かの日常の中に自分の言葉が残っているかもしれない、そんな「見えないつながり」の存在を感じました。派手な展開はないけれど、心がじんわりと温まっていく。ページを閉じたあと、少し優しい気持ちで過ごしたくなる物語でした。

【書誌情報】

タイトル宝島社文庫 木曜日にはココアを
著者青山美智子【著】
出版社宝島社
発売日2020/06
ジャンル文芸(一般文芸)
ISBN9784800297129
価格¥704
出版社の内容紹介

わたしたちは、知らないうちに誰かを救っている――。川沿いを散歩する、卵焼きを作る、ココアを頼む、ネイルを落とし忘れる……。わたしたちが起こしたなにげない出来事が繋がっていき、最後はひとりの命を救う。小さな喫茶店「マーブル・カフェ」の一杯のココアから始まる12編の連作短編集。読み終わった後、あなたの心も救われるやさしい物語です。※文中に登場するシドニーの情報は、2017年7月時点のものです。

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本の概要(事実の説明)

『木曜日にはココアを』は、全12話からなる連作短編集です。 物語は喫茶店の店員を起点に、お客さんやその周囲の人々へとつながっていきます。登場人物たちは、仕事、恋愛、家族、日常のちょっとした悩みを抱えながらも、誰かの優しさに触れ、少しずつ前を向いていきます。 カフェを起点にした物語が円を描くようにめぐり、最後は再び「マーブルカフェ」に戻る構成。まるで読者自身がカフェを訪れ、常連客として見守ってきたような感覚になります。 特に印象的なのは、タイトルにもなっている「木曜日」と「ココア」。それは忙しい毎日の中で、自分を見つめ直すための小さな合図のようにも感じられました。 この本は、肩の力を抜いて穏やかな時間を過ごしたい人にぴったりです。

印象に残った部分・面白かった点

最初と最後のエピソードをつなぐ「ココアさん」の関係性には、思わず胸が温かくなりました。 お互いの存在を“ココアさん”と呼び合う2人が、知らず知らずのうちに惹かれ合い、やがてそれを知る――そんな構成の巧みさと、淡い恋の余韻が見事でした。 また、2話目のキャリアウーマン母の卵焼きのエピソードも印象深いです。うまくいかないお弁当作りを息子が「お母さんの卵焼き、好きだよ」と褒めるシーンには、思わず涙腺が緩みました。 日々のささいな出来事にこそ、愛情や努力が詰まっている。青山さんはそんな「普通の幸せ」を丁寧にすくい取っています。 それぞれの章が少しずつつながりを持ち、最後に一つの輪になる構成も心地よく、「ああ、ここでまた出会えたんだ」と思わせてくれます。

本をどう解釈したか

私はこの作品を、“日常の中に潜む優しさの連鎖”を描いた物語だと感じました。 誰かの小さな行動や言葉が、知らないところで別の誰かを救っている。そんな「見えない縁」の存在に気づかされます。 タイトルの「ココア」は、温かさと甘さ、そしてほろ苦さを象徴しています。 それは人との関係そのもの。ときに苦く、ときに甘く、でも心を温めてくれる――そんな人生の味わいを、青山さんは静かに描き出しています。 また、海外(シドニー)と日本を行き来する場面も、距離や時間を超えた“人のつながり”を象徴しているようでした。 「正しい謙虚さは、正しい自信」という言葉にも、作者が伝えたい人間観が凝縮されています。

読後に考えたこと・自分への影響

読み終えて感じたのは、「人は誰かとつながることで、やっと自分を見つけるのだ」ということです。 日々の中で、つい自分のことだけに囚われがちですが、少し目を上げるだけで、周りにはたくさんの優しさがある。 そのことに気づかせてくれるのが、この『木曜日にはココアを』です。 「何気ない一言が誰かを救う」というテーマは、青山作品に共通する温かさ。 この本を読み終えると、自分の言葉にも少しだけ優しさを込めたくなる。 そんな変化が読者の心に生まれるのだと思います。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

この作品は、静かな休日の午後や、夜寝る前のリラックスタイムにぴったりです。 温かいココアを用意して、静かな音楽を流しながら読むと、物語の優しさがより深く染み込みます。 忙しい日々の中で「少し疲れたな」と感じるとき、マーブルカフェを訪れるような気持ちでページを開いてみてください。 登場人物たちの穏やかな日常が、あなたの心もやわらかく包み込んでくれるはずです。

『木曜日にはココアを』(青山美智子・著)レビューのまとめ

『木曜日にはココアを』は、人生のなかの“何気ない瞬間の愛おしさ”を思い出させてくれる連作短編集です。

一話ごとに人の温度が伝わってくるようで、読み終えたあと、あなたもきっと「誰かに優しくしたい」と思うはず。

心が疲れた夜、そっと手に取りたい一冊です。

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