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『HACK』(橘玲・著)レビュー|「知性の罠」と現代社会をハックする視点

小説・文学

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読後にまず感じたのは、「橘玲らしさ、炸裂」という一言でした。 『HACK』は、社会のルールを知り尽くしたうえで、その隙間を軽やかにすり抜けるような知性の物語です。読んでいて何度も「こんな風に世界を見られたら」と思わされました。 ビットコインやサイバー犯罪といった現代的な題材が散りばめられ、同時に「公権力とは何か」「自由とはどこにあるのか」という哲学的な問いも潜んでいます。久しぶりに橘玲の小説を読んで、社会の裏側を覗くようなゾクゾクする感覚を味わいました。

【書誌情報】

タイトル幻冬舎単行本 HACK
著者橘玲【著】
出版社幻冬舎
発売日2025/10
ジャンル文芸(一般文芸)
ISBN9784344045286
価格¥2,090
出版社の内容紹介

欠陥(バグ)があるから侵入(ハック)する、だけ。今度の「マネーロンダリング」は、暗号資産(=仮想通貨=クリプト)! これが令和の冒険ミステリーだ!!橘玲11年ぶりの書き下ろし長編。2024年、秋。暗号資産で得た利益への課税を逃れ、バンコクで暮らすハッカーの樹生(たつき、30歳)は、大麻ショップの屋上で日本人の情報屋・沈没男(ちんぼつおとこ)から相談を受ける。彼は、特殊詐欺で稼いだ違法資金を、ビットコインを使ってマネーロンダリングしたい、というのだ。頭脳明晰だが退屈な日々を送る樹生は、その話に乗ることにした。彼にとってはハッキングもマネロンもクリプト(暗号資産)もすべて「ゲーム」だった。そんな樹生は、五年前のスキャンダルで失踪した元アイドル咲桜(さら)がバンコクにいることを知り、そして彼女から連絡を受けたことがきっかけで、国際的な「陰謀世界」へと迷い込んでいく――。樹生にとって、最初は取るに足らないゲームのはずだった。彼に近づく検察と公安の諜報機関。北朝鮮のハッカー集団ラザルス。関知せず動かないタイ警察。なぜか樹生にコンタクトを取り続ける伝説のハッカーHAL(ハル)---。ハッキング技術を駆使した、目眩くマネーロンダリング手法と、二重三重に仕組まれた罠と裏切りで、狙い狙われるのは、10億円が500億、そして2500億円へと瞬く間に膨れ上がる北朝鮮の暗号資産マネー――。

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本の概要(事実の説明)

『HACK』は、橘玲による久々の長編小説で、サイバー社会とグローバル経済を背景に描かれた知的サスペンスです。 ビットコイン、キャバクラに通う大学生、そして国家のシステムをすり抜ける天才的な「ハッカー」たち。現代日本の経済的停滞や倫理の空白を、軽妙かつ冷徹な筆致で描いています。 テーマとしては「欺く知性」や「制度を乗りこなす者と従う者の差」。橘作品に通底する「社会構造の不条理」への眼差しが、今回も鋭く光ります。 難しい経済用語も多いのに、なぜかすっと頭に入ってくるのは、著者の語り口がエッセイで培われたものだからでしょう。彼のノンフィクションを読んできた読者にとっては、まるで理論が小説の中で“実験”されているような感覚です。

印象に残った部分・面白かった点

印象的だったのは、「現金」という存在への独特の視点でした。 橘は「完璧な帳簿がないからこそ現金が使われている」と描写します。普段当たり前のように使うお金を、社会の“余白”として描く発想にハッとさせられました。 また、「詭弁ですよ」という一節から始まる税制度のシーンも強烈です。 国家の制度はあえて“余白”を作り、その中で人々を泳がせる。必要があれば捕まえ、そうでなければ自由にさせる――まさに現代社会のリアルを突き刺す描写でした。 橘玲の知的挑発はいつも痛快で、読んでいるうちに「自分はどこまで自由なのか?」と問い直したくなります。

本をどう解釈したか

この小説のタイトル「HACK」には二重の意味があると感じました。 ひとつは、テクノロジーの文脈での“ハッキング”。 もうひとつは、社会そのものを“乗っ取る”という象徴的な行為です。 米国のメガテック企業が世界をハックしたように、物語の登場人物たちは国家や制度の「裏側」にアクセスしていく。 そこには単なる犯罪や反逆ではなく、「知の使い方」に対する倫理的な問いがあります。 知識を持つ者が世界をどう変えるのか。あるいは、どのように“欺く”のか。橘玲はその境界線の危うさを、小説という形式で提示しています。 私はこの作品を、社会の構造を理解するための“思想実験”のように感じました。読後には、不気味な静けさと同時に、自分の中の倫理観が少し揺らぐような感覚が残ります。

読後に考えたこと・自分への影響

この本を読み終えて強く思ったのは、「小市民にも小市民なりのHACKがある」ということでした。 世界を変えるのはメガテックの天才たちだけではありません。 日常の中にも、自分なりの思考や選択で“ハック”できる余白がある。たとえば、情報の受け取り方を変える、常識を疑ってみる、制度の仕組みを学んでみる――それだけでも世界の見え方は変わる。 橘玲の作品は、読者に「自分で考えろ」と突きつけてきます。 その挑発的な姿勢こそが、彼の魅力であり、『HACK』という作品の真のメッセージなのだと感じました。 読み終わる頃には、自分の中の「思考のOS」がアップデートされたような気がします。

この本が合う人・おすすめの読書シーン

『HACK』は、静かな夜に読むのがおすすめです。 日中の雑念が消えた時間、デスクライトの下で一人、ページをめくる。 社会の裏側をのぞくような感覚を、じっくり味わえます。 また、カフェや旅先で読むのもいいでしょう。 都会の喧騒の中でこの本を開くと、「この世界も誰かにハックされているのかもしれない」という不思議な感覚に包まれます。 知的刺激を求める夜、何かを変えたいと思っているとき、橘玲の『HACK』は確実にあなたの思考を揺さぶります。

橘玲『HACK』レビューのまとめ

橘玲『HACK』は、社会を見抜く知性と、それを使いこなす覚悟を問う小説。

軽快なストーリーの中に、鋭い思想と倫理が潜む“現代の寓話”のような一冊です。

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