銀の雪、なのに八月って⁇
タイトルが何を指すのか、知りたいと思う気持ちが大きくなり、手に取りました。
表紙は涼しげで清涼感があり、絵やタイトルからは、何となく歴史小説かなと思っていましたが、科学寄りの現代小説とは、良い意味で期待を裏切られました。
生きていく限り、知的好奇心があった方が、楽しい事が多いと思うので、この本はそういう視点でもおすすめです。
『八月の銀の雪』の内容
無愛想で手際が悪いー。コンビニのベトナム人店員グエンが、就活連敗中の理系大学生、堀川に見せた驚きの真の姿。(『八月の銀の雪』)。
子育てに自信をもてないシングルマザーが、博物館勤めの女性に聞いた深海の話。深い海の底で泳ぐ鯨に想いを馳せて…。(『海へ還る日』)。
原発の下請け会社を辞め、心赴くまま一人旅をしていた辰朗は、茨城の海岸で凧揚げをする初老の男に出会う。男の父親が太平洋戦争で果たした役目とは。(『十万年の西風』)。
科学の揺るぎない真実が、人知れず傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇。
『八月の銀の雪』を読んで
置かれた場所で、愚直に、もがきながら生きているが、それぞれの出会いをきっかけに、前に進もうと、一歩を踏み出す。そんな心の変化を静かに見守るような読書でした。
自分のことも見つめ直したくなる。本当に大切なことは何だろう…。
『八月の銀の雪』
就職活動中の大学4年生が、コンビニでバイトをしている外国人と出会う。
地球のコアを観察するように、人の心を見ることが出来たら。
『海へ還る日』
離婚して幼い子を抱え生活している母が、偶然、電車内で会った年配の女性の正体は?
深海の中で内的精神的世界に浸れたら。
『アルノーと檸檬』
立ち退きを迫る不動産屋が突き止めたのは、今の時代にアナログもいいところの伝書鳩。
ハトが持つ匂いや音の地図を認識出来たら。
『玻璃を拾う』
藻類にこのようなデザインの妙があったとは!
ミクロの珪藻の殻が織りなす幻想の世界。『玻璃(ハリ)を拾う』というタイトルのセンスも素敵!
『十万年の西風』
原発事故に絡む、気の遠くなるような地球の未来の話。目先の利便性のために、私達は大きな過ちをしているのでは?
凧による気象観測を個人的に続ける男。
感想
サイエンスネタがバランスよく挿入されており、科学者だけが知る不思議な世界はリアルなのに実にファンタスティック。科学者の視点から発せられる社会的弱者の届かぬ声が心に響きます。
短編集の、どの話も、自然科学の知識がギュッと盛り込まれていて、それが人生に迷っている主人公達の人生観に響き、背中を押してくれるようなお話。
小説というより科学本のような一面も感じられます。作家さん自身が研究者だった経歴から納得ですね。地球や生物といった自然科学的な要素と、小説で描く人文学的要素がこんなふうに優しく混ざりあうものなんだと感じました。
全体的に静かで小川の流れのような雰囲気のストーリーでした。
最も印象にのこったのは、
大事なのは、何かしてあげることじゃない。
この子には何かが実るって、信じてあげることだと思うのよ。
『八月の銀の雪』(『海へ還る日』) 伊与原新 新潮社
『海へ還る日』の主人公が、この子(娘)に何も与えてやれない、何もしてやれないと嘆くのに答えた助言者の言葉です。
『八月の銀の雪』を読んでみたいなと思って頂けたら、ぜひ手に取ってみてくださいね。
最後までお読みくださり、有難うございます。
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